□幸せな時間
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カチャ…


枢は小さな物音で目を覚ますと、強い日差しに声を漏らした。


「ぁ…」


カーテン越しとはいえ、吸血鬼である彼には僅な光でさえ眩しく感じるもの。


いつもよりも本の少し足早にベッドを後にするとリビングへと向かった。


リビングへ着くとそこには可愛らしいエプロンを身にまとった愛しい少女がいる。


「あっお兄様。おはようございます。まだ寝ていても良かったのに………お早いお目覚めだったんですね」

ニッコリと微笑みながらいう彼女に枢は自然と頬が緩み、言葉を返す。


「おはよう、優姫」


おはよう、だなんて言ったのは久しぶりだ…昔一度だけ、優姫に会いに行った時言った以来ではないか…そんなことを思いながら彼女の元へと向かう。


テーブルを見るとささやかではあるが朝食が用意されていた。


一生懸命作ったのが見てとれてまた笑みがこぼれる。


「あっあんまり見ないで下さいっ」


優姫は必死に枢をソファーへ追いやろうとしたが敵う筈もなく、逆に一緒にキッチンへと連れて行かれる。


「あ、あの、枢せ…」


「“枢”」

「え…?」


「“センパイ”でもなく、“おにいさま”でもない。優姫?」


「あ…えと、…はい」


「じゃあ呼んでみて…?」


「えぇ!?今、ですか…?」


「そうだよ」


そんなぁ…。


今まで呼び捨てで呼んだことなんて幼い頃しかない。それも人間の時の話。それを今になってなんて…無理だ。

内心そう思っていたが…


「もしかして…嫌なの…?」


「い、いや!決してそういうわけでは…」


「じゃあ呼んで…?」


「……はい…」


そう言われるとつい断れなくなってしまう。





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