―BL―

□すり抜けた温もり
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昨夜―――…

彼、零が部屋へやってきた。
珍しく彼から僕の元へとやってきて何も言わない彼を、僕は部屋へと招き入れた。

別に何も言わなくとも、何もしなくともいいんだ。

彼自身が放っている視線、空気、全てが僕に訴えていたから。


そっと触れた指先から感じる哀しみや憂いが、愛しさに変わって静かに心から溢れだす

彼をゆっくり抱きしめれば零はそれを拒むことは無かった。


何も言わず、そのまま。


触れ合った温もりだけで心が満たされるから、それだけで良いのだと感じた。きっと零もそう思っているだろう…いや、そう思っていて欲しい。


ただ一言だけ



「…そばにいろ…」



そう言った零の言葉を耳にしながら、


「…眠ろうか」


"そばにいるよ"

その言葉を言う代わりに君を深く、深い愛で抱きしめる。











けれど、

気付いた時には腕の中の温もりは消えていた―――…


薄く開けた瞳に映る君の脱け殻。

"あぁ…そうか"


それを見た時、予想していたようでそうでないことを祈っていた僕がいたことに気付いた。

そしてその思いに自ら苦笑しつつも、胸の奥を小さく締めつけるような、ぽっかりと空いてしまった空洞に寂しさを感じた。





「零―――…」


誰に聞かれるともない、ましてや、零に届くこともない僕の小さな呟きは、彼のいない部屋に静かに響いて…

布団に残る僅かな体温、匂い、それだけが昨夜彼が居たことを証明してくれた。








『すり抜けた温もり』






-Fin-
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