―BL―
□すり抜けた温もりU
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何か特別に用があったわけじゃない。
ただ…―――気づいたら足はあいつの部屋へと向いていた。
何も考えずに、頬を掠める風の感覚だけがぼんやりと頭の片隅にあったような気がしていただけ。
"………"
部屋の前へ着き枢の顔を見た時に、初めて自分が居る場所を自覚した。それと同時に何を発することも出来なくて、何も言わずに、何も考えなかった。
そんな俺の頬にそっと触れた小さな温もり、それはやがて大きな温もりへと変わり全身が大きく揺れ動くのを感じた。
包まれて、温かくて、こうしてやっと俺はここに来た理由が分かった。
いつにもなくぼんやりと夜空を見上げ、時間がさらさらと流れていくのを眺めながら探していたもの。
「…そばにいろ…」
ただこの気持ちだけでいい…満たされるような安心感と、後に感じる押し寄せるような不安にかられながらも手離したくはない。
"…眠ろうか"
今だけでいいから―――…
目が覚めると珍しく枢は俺を抱きしめたまま起きなかった。そしてそこから静かに抜け出すと部屋を後にした。
部屋を出ると思い出す体に残る一晩中感じていた枢の温もり…
手離したくはなかった
けれどそばに居すぎてはいけないから―――…
『すり抜けた温もり』
-Fin-