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□赫イ夜。
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俺がこんなことを始めたのは何時からだっただろう。

ビシャッ
濡れた音が響く。

ただ欲望のために己を赫に染める。
別に人をヤるのが好きなわけじゃない。
血だって生臭い。
どちらかといえば嫌いだ。
なのに。
なんで俺はこんなことしてるんだろう・・・?

俺がコレを始めたのは先月だった。
そう。先月までは俺は普通に生活してた。
俺は家族4人で小さい貧しい村で暮らしていた。
時々しか帰ってこれなくてあんまり話せない父さん。
いつも笑顔でとびっきり上手い飯をつくる母さん。
そして、俺のひとつ下で、引っ込み思案な弟。
村での暮らしは決して楽ではなかったけれど、俺は楽しく暮らしてた。

ある日のことだった。
その日は珍しく父さんが帰ってきてた。
こんな日は母さんがうでをふるって飯を作る。
俺は母さんに材料のお使いを頼まれた。

家に帰ってくると家の中の空気がいつもと違う気がした。
恐る恐る中に入った俺は目を疑ってしまった。
部屋中に散らばっているのは鮮やかな「赫」
足を踏み入れた俺を迎え入れてくれたのは
狂ったように笑う母さんだったモノ。

そこからはあまりおぼえていない。
俺の次に部屋に入ってきた父さんが物取りのせいだと断定して事なきを得た。
泣き喚く母さんと、うつろな目をした俺。
一生懸命はなしかける父さん。
そして。
部屋を彩る「赫」イ・・・

それからというもの俺は毎日、俺の部屋に入ってくる人影を感じた。
夜、ソレは入ってくるのだ。
みなが寝静まる2時ごろ、俺の枕元に立ち、10分ほどすると戻っていく。
それが一週間も続き俺は感づいた。
「アレは俺を何時殺そうか考えているのだ」と。
その日俺は、母さん自慢の包丁を抱え、寝たふりをしてソレを待った。
2時頃、やはりソレは来た。
枕元に完全に近づいたのを見極めて俺は包丁を突き出した。
そして、その奥で泣き喚く、うるさいのにも突き刺しておいた。

あれがきっかけだったんだろう。
その日から俺は、夜な夜な人を斬り歩いた。
そのうち村では満足できなくなって、町に出た。
俺の着ているものはもう真っ黒だった。
そんなことは気にも留めず、俺は、タダ欲望のためだけに人を、己を、「赫」に染めた。

目の前にヤツが現れたのはいつからだったか。
その日、俺は、町で一番大きな家に住んでいたニンゲンを殺した。
そのとき視線を感じ、あたりを見渡すと、「赫」の中にひとつ、「白」を見つけた。
ヤツは俺を見つめて悲しい顔をしていた。
その顔をどこかで見た気がして。
とても大事なものだった気がして。
俺はなんともいえない気持ちになった。
俺はヤツに問いかけた。
だけども何も答えない。
俺はヤツを怒鳴りつけた。
それでも何も話さない。

ヤツは言った。
「―・・・。」
そのとき俺の夢は覚めたんだ。

何で俺はこんなことしてるんだろう。
ここはドコだろう。
眼の前に広がるのはただ「赫」イ、「赫」イ・・・。

ヤツは言った。確かに言った。
「兄ちゃん・・・。」と。

ソレを聞いて俺は全てを覚醒させた。
何で俺はこんなことしてるのか。
ココはドコなのか。
俺は・・・誰なのか。

あの日、俺が家に帰ってきたとき、俺の弟は、母さんに「間引き」されていた。
知らなかったのは俺だけ。
・・・いや、俺も知ってた。聴いてない振りをしてただけだ・・・。
でも母さんは、壊れてしまった。
だから父さんは「物取り」のせいにしたんだ。
それで、俺の部屋に毎日入って見回りをしてたんだ。
・・・俺、知ってたのに。知ってたのに!!
あの日俺は父さんと母さんを殺して。
関係ない人を己の欲望のためにたくさん殺して。

「は・・・ははは・・・ははははは・・・」
俺は真っ赫だ。
「これでわかったろ?俺にもう生きる道がないって。」
だから。だからそんな寂しい顔をするなよ・・・。
分かったよ。
俺もすぐいくよ。そっちに。
はは。父さんに殴られるかもナ。
でも、こんな世界で汚れて生きるよりはさ。

ごめんね母さん。
ごめんね父さん。
ごめんな。他のたくさんの罪のない人たち。
許してもらえないかも知れないけど
コレだけ言わせてください。

生まれてきてごめんなさい。

グシャッ。

‐連続殺人事件容疑者は、10歳の少年。
 弟を殺されたことが原因だとみられる。
 ○×町の町長宅に侵入、皆殺しにした後、
 己の首に包丁を突きつけ自殺。
 少年の着衣は、返り血で真っ赫だった。
 警察は容疑者死亡のまま書類送検したー

これは家族を家族に殺された悲しき少年の末路―

 end・・・?
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