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□偽物ヒーロー
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俺には兄がいる。
軟派で掴み所のない俺と正反対なタイプ。
そんな兄が俺は嫌いで仕方がない。
離れたいと思っているけど離れられないのが現実だ。
何故ならその張本人がしつこく絡んで来るから。
「ただいま、若」
「…おかえりなさい」
また遊びまわっていたのか、そう思うと自然に眉が寄った。
こんな遅い時間まで外出してたのに平気な顔をしている兄が嫌だった。
母上を困らせていると思うと更に嫌いになりそうで足早の通り過ぎようと思った。
けどそうさせないのがこの兄である。
「相変わらず冷たいな」
「……」
「黙っちゃった。そんなに俺が嫌いか?」
自室に向かっているのに付いてくる。
分かっているなら何処かに行って欲しいのに。
後ろをチラッと見ると女子に騒がれる笑顔をこっちに向けてくる。
一瞬ドキッとしてしまったが気のせいだろう。
「昔の可愛い若は何処にいったのかな」
それはこっちの台詞だと言ってやりたい。
昔は兄が大好きだった自覚はある。
憧れだったのだ。
何でもできて、自分と遊んでくれる兄にずっと付いていた。
虐められたらやり返しに行ってくれて、泣いていたら慰めてくれる兄は、俺にとってヒーローの様な存在だった。
それがいつからか兄は変わった。
兄にとって反抗期の様なものだったのかも知れないけど、俺は兄に失望した。
そして離れていき、今のような関係になった。
「なぁ、若」
少し昔の事を考えていたらいつの間にか自分の部屋の前にいた。
先程、後ろにいた兄は俺の目の前に移動している。
目の前の人を見るといつもと違い真剣な顔をしていた。
「俺はお前が好きだよ…お前は?」
「…嫌い」
いつもなら絶対答えないのに何故か答えなければいけない気がして口を開いた。
兄は俺の答えを予想していたのかにこりと微笑んだ。
「それは本当?」
「……」
こくりと一つ頷く。
すると顔を覗き込まれるように近づかれて肩を掴まれる。
身動きがとれなくて、離して欲しくて睨む。
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