倉庫

□伝えたい
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学校中が騒がしい中、俺の気分は下がりきっていた。
本日何回目かの溜め息を吐く。

鞄の中を覗くと綺麗にラッピングされた小さな箱が無造作に転がっていた。
バレンタインで貰った訳ではない。

昨日、迷いに迷った末に勇気を出して買ったものだ。
結局渡せなくて放課後になってしまった訳だが。


「はぁ…」

「エライ落ち込んどるな」


聞きなれた似非関西弁で話しかけられる。
振り返ると思った通り忍足さんが胡散臭い笑みを浮かべていた。


「何か用ですか」

「いや、丁度日吉が見えたから話しかけたんやけど」

「そうですか」

「で、何かあったんやろ」

「…あんたには関係ないです」


聞かれたくない。
自分が情けなく思えてくるし。こんなことを考えてるって知られたくない。
それにからかわれるだろうし。


「俺が当てたろうか」

「え?」

「跡部にチョコ渡せなかったんやろ」

「っ!?」


思わす身体が反応してしまった。
忍足さんはそれを見逃さずに当たったんやと笑いながら言った。

バレてしまったものは仕様が無い。
無視してどうにか逃れようと思った。


「何で渡さなかったん?」

「……」

「答えてや」

「……」

「…なら俺にチョコ渡せばええやろ」

「…は?」


言っていることが良く理解出来なくて思わず足が止まる。
さっきまでニヤニヤと笑っていたのに、急に真剣な表情に変わって緊張してしまう。
反応に困って後退りすると、それに連動する様に距離を詰められる。


「あの…忍足さ」

「日吉」

「と、取り敢えず止まってください」

「止まったら逃げるやろ」

「そんなこと…」

「なぁ、俺でええやろ?」


背中に冷たい壁の感触が伝わってくる。
顔の横に忍足さんの手が伸びて逃げ道を失う。
耳に吐息が当たり身体が強張る。
もう駄目だと思い目を思い切り瞑ると前方の気配が急に消えた。


「やめた」

「へ?」

「今日は取り敢えずええわ。けど諦めた訳やないから」


悔しそうに顔を歪ませながら忍足さんが右の方を指さす。
疑問の思いつつ見てみると、怒りを露わにした跡部さんがいた。


「忍足」

「分かっとる…邪魔者は退散やろ」


そういうとクルッと背を向け何処かに歩いて行ってしまった。
当然その場に残るのは俺と跡部さんな訳で、ものすごく気まずい。

跡部さんは不機嫌そうに俺を見つめ、俺は思わず目を逸らす。
どうにかしたいがどうにも出来ない。
この状況に追い込んだ忍足さんに殺意しか感じない。


「おい」

「な、んですか…」

「んなに強張るな」


そうは言われてもこの状況で平然とするのも無理な話だろ。
俺の態度にじれったくなったのか舌打ちをして、肩を掴まれた。


「今日は何の日か知ってるか」

「…まぁ」


この話題を今振られると思わなくて思わず返事が遅れた。
というよりこの人がそんなこと気にしていたことに驚きだ。


「…何かないのか」

「……」

「……」


再び二人の間に沈黙が流れる。
素直になれない自分に呆れてしまう。
けれどいざそういう状況になると躊躇ってしまう。

跡部さんもそれを見透かしているようで何も言わずにこっちを見てる。
分かっているならいつものように強引に奪って欲しい。


「貰ってない」

「…え?」

「今年は誰からも貰わなかった」


本日二度目の衝撃。
毎年、跡部さんのファンが大量にチョコを渡しているのでもはや名物の様なものになっていたからだ。

そのチョコを全部断ったというのだから驚くに決まってる。


「今年は一人からしか受け取れない」

「……」

「そういって断った」

「〜〜っ/////」

「分かっただろ?」


満面の笑みを俺に向けてくる。
格好良さに思わず目が眩む。
こんなに嬉しいことを言われて渡さな訳がない。

鞄を漁り中から箱を手に取る。
跡部さんから少し距離をとって笑顔を浮かべる。
俺の行動に疑問をもったらしく不思議そうな顔をしている。


「これが俺の気持ちです」


手にした箱を跡部さんに向けて投げる。
いきなりだったけど即座に反応し、受けっとってくれた。

流石に投げられるとは思っていなかったらしく驚いた表情をされた。
してやったりと思う。


「お返しは三倍返しですよ」

「ふっ、可愛くねえな」

「それが俺ですから」


当たり前でしょうと言えば楽しそうに肯定される。
この人の喜ぶ顔が見れただけで渡して良かったと思う。



思っているのはあなただけじゃないんです。
俺も思っていること忘れないでください。




夕日に照らされる二人の間に暖かい空気が流れた。













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