倉庫

□曖昧な距離
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青空が広がる昼下がり。
そこにはいつも通りの風景がある。

ただ一つを除いてはだが。

屋上で幼馴染を待つ日吉の顔には不満の色が見える。
溜め息も重いものになる。

けどこの溜め息は決して待たされていることに対してではない。
これからここに来るであろう人の事を思ってのことだった。


幼馴染という関係は実に厄介だ。

近いような遠いような曖昧な二人の距離にもどかしさを感じる。
そのことを考えると再び溜め息が出る。

憂欝な気分を変えようと空を見上げていると後ろからドアの開く音が聞こえた。


「悪い、遅くなった」

「…本当ですよ」


すまないと謝ってくる景兄の顔が少し綻んでいることに気付いた。

自分を放っておいて何をしていたんだと聞きたかったが聞かない。
否、聞けないと言った方が正しいか。

何処までなら自分が入っていいのかよく分からなかった。
いくら幼馴染といってもプライベートな部分まで入っていくのはいけない気した。

本当はもっと知りたいというのが本音だが。


「先に食べたのか?」

「待っててあげましたよ」

「ありがとうな…けど先から敬語だぞ」

「あっ…」

「二人の時は敬語はやめろ」

「ごめん」

「それでいい。今更、敬語なんて使う仲じゃないだろう」

「…うん」


また景兄から作られるもどかしい距離。
この事さえ無ければどれだけ楽か。
けどこの距離が無ければこんな関係もなかった。

そう考えると嬉しいようで悲しいレッテル。

優しく微笑んでいる景兄に苛立ちを感じる。


「早く食べよう」

「あぁ…どうしたんだ急に」

「何が?景兄だってお腹減っただろ」

「そうじゃなくて、何怒ってるんだってことだよ」

「怒ってなんかいない」

「嘘つくなよ。幼馴染の俺にも言えないようなことか?」


頭の中で何か切れたような気がする。

途端に出てきた俺の中の黒い部分。
絶対、景兄には知られたくなかったことが次々と頭を駆け巡る。


「なんで…」

「…?」

「何で景兄はそうやって俺の気持ちも知らないのに入りこもうとするの!」

「……」

「幼馴染の俺がいいならもう近付かないで。俺はもう幼馴染なんて無理だよ」


お願い、早く気付いて。

ちゃんと俺の方を見て欲しい。

落ち着かな心で考えてしまう。
景兄から洩れた溜め息に涙が出てしまいそうになった。
顔が上げられない。


「若、顔上げろよ」

「……」

「良く聞いとけよ…俺の一世一代の告白だ」

「…え?」

「俺は幼馴染の前に日吉若そのものが好きだ」

「どういう…」

「お前は分かってないだろうけど、俺は若が俺の事好きだっていう前からずっと好きだ」


いつの間にか頭にあったはずの手が背中に回っていた。
きつく、強く抱きしめられる。
求めていた温度に心が安らいでいるのが分かった。


「先だって俺のことなんて待たずにここにはいないんじゃないかって思った。けど若の姿見ただけで嬉しくなった」

「……」

「昔から惹かれていたんだ。俺の周りで楽しそうに笑う若が愛しくてたまらなかった。お前のためならどんなことをしても守りたい」


相変わらず綺麗な笑顔を俺に向けてくる。
景兄の瞳の中に映る俺は幸せそうな顔をしていた。

報われると思っていなかっただけに安堵感が溢れた。


「これからも俺の大切な人でいてくれるか?」

「返事なんて聞かなくても分かってるくせに」


甘い睦言に酔ってしまうような感じがする。


幼なじみの二人の曖昧な距離。

それは一歩ずつ近づいて離れることはないだろう。

そう思いながら短いキスを一つした。

















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