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□伍千打記念
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「風邪引きますよ」


不意に上から何かが被せられた。

触ると柔らかい感触がしてタオルだとわかった。
日吉の私物なのか仄かに石鹸の匂いがする。

間接キスのつづき

「いつまで寝転んでんですか」

「起き上がるのがめんどくせぇ」

「はぁ…そんなんだから激ダサなんじゃないんですか」

「セリフパクんな」


タオルを顔から退かすといつもより何処か嬉しそうな顔をした日吉がいた。

覗きこまれる体制だったので必然的に見上げるようになってしまう。

何が嬉しいのかよく分かんねぇけど笑顔の日吉に可愛いと素直に思った。


「お前いつもそうやって笑ってればいいのに」

「嫌ですよ、そんなの。別に何が面白い訳でもないのに…」

「じゃあ何で今笑ってんだよ」

「宍戸さんが犬みたいに見えたんで」


何か頭撫でたくなるじゃないですか

そう言いながら俺の横にあるペットボトルに手を伸ばして一口飲まれる。


あ、間接キス…


見た瞬間、脳裏を過った単語に思わず反応してしまった。

間接キスって男同士ならカウントされないだろ。


「一口貰いました」

「普通、飲む前に言うことだろ」

「だから過去形にしたんじゃないですか」

「ヘリクツ」

「誉め言葉として受け取っておきます」


いつも通りに話しているつもりなのに、顔の火照りが冷めない。

それどころかさっきの事を思い出して熱は増すばかり。

飲んだときに動いた喉仏

少し濡れた唇

俺の頭を支配するには充分過ぎる光景だった。


「じゃあ先に部室戻ってますよ」

「あぁ…」


適当に返事を返すと日吉が何やら変な顔をしてこっちを見ているのが視界の端に映る。


「何だよ」

「…仕返しのつもりですか」

「はぁ?」

「手、離してください」

「うわっ!?」


気付かぬうちに日吉の服の袖を握っていたらしくそれで部室に戻れなかったらしい。

全く無意識の行為に自分でも何やってるのか分からない。

引きとめるつもりは無かったのに。


「悪ぃ」

「?変な宍戸さんですね・・・じゃあ俺、行きます」

「おう」


遠ざかってく背中を見て日吉を引きとめようとしたのか分かった気がした。

きっと俺は日吉との間接キスのその先を頭に思い浮かべていたんだろう。


何故かそれを気持ち悪いとも思わないですんなりと納得してしまった。

ペットボトルを手に取り俺も思い切り中身を飲み干した。


















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