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□伍千打記念
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二人の距離を繋ぐのは一つの約束


そんな不確かな関係は誰かが触れればすぐに切れてしまいそうな糸のようだ


だから早く俺に感じさせてください


じゃないと俺は・・・



あのキスを忘れない



跡部さんと付き合い始めて4年が経つ。
はじまりは自然な流れでくっついた。

けど跡部さんが卒業したあの日から俺の時間は止まってしまった。
正確にいうと止まったような感覚しかない。
それに何も感じることのない自分が無性に悲しくなる。


跡部さんは卒業と同時に海外に渡った。
もちろんそれを応援したのは俺自身。
だからこそ今さら行かないでと泣いてでも縋っておけばよかったなど後悔しているのだ。


もしあの時、俺が止めていたらあの人は行かないでくれただろうか…。
けど俺の冷静すぎる思考はすぐに何度繰り返したって結局俺は行くことを止めないだろうという事実にいきつく。

それでもあの人の温もり、声、笑顔と全てが恋しくて仕方がない。
今すぐにでも会って抱きつきたい。
そんな願いは叶わないと分かっていても求めてしまう。
なんて不毛な恋なんだろう。


そんな考えをする時に必ず思い出す約束。
小さなキスを一つ落とされ、告げられた言葉は今でも鮮明に思い出せる。


『俺は何があっても絶対お前を迎えにいく』


だから待ってろと言わんばかりの瞳に心が揺さぶられた。
その言葉だけが俺を安心させるものだった。
けしてそれを疑っている訳ではないがあれからなんの音沙汰もないとなると弱い自分が崩れてしまいそうになる。

正直もうかなり限界だった。
このままでは俺は確実に駄目になる。
だからこの日、賭けにでようと思った。

もう2年も連絡のない携帯を握りしめ電話帳から名前を選び発信のボタンを押す。
手の震えが止まらない。


10コールで出なかったらそこまでだ。
もう涙は枯れるほど泣いたので出ないはず。
心臓がうるさい位に鳴り続ける。
1コール 2コール 3コール・・・
4コール目の途中で音が鳴りやみ緊張がはしる。



「もしもし」


ずっと聞きたかった声が携帯から聞こえてきて涙が零れる。
とっくの昔に枯れ果てたと思っていた滴が止まらずぼたぼたと落ちていく。
早く答えなきゃいけないのに声がでない。
焦る自分に対し笑う声が後ろから聞こえた。
ゆっくり振り返る。


目の前には数年前より背が高くなり大人っぽさがましたあの人の姿があった。
頭が真っ白になり溢れでる涙が止まらない。


「な・・・んで・・・」


声が掠れて嗚咽混じりに出したので聞き取れなかったかもしれない。
それでも自然と今の気持ちが言葉になっていた。

なんでここにいるんだ?

なんで連絡を寄こさなかった?

なんで・・・なんで・・・?

聞きたいことはたくさんある。
でもそんなことより俺が言いたいことは


「おかえりなさい、跡部さん」

「…ただいま、日吉」


きっと俺の顔は泣いたことよりぐしゃぐしゃになって酷いことになっているだろう。
けど精一杯の笑顔で今までで一番幸せな顔をしているはず。
お互い引き寄せられるように抱き合い、本当に優しい口付けをした。
まるで約束をしたときのような小さな暖かいキスだった。








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