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□君色ロマンス
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「日吉、パス!」


綺麗に磨かれたバスケットボールが自分のところにくる。

少し強くパスしたのかじんわりと手が痛んだ。


ゴールは目の前
ディフェンスは1人
いける、いくしかない


そう思って思い切りジャンプしてゴールに向かってボールを投げる。


入れ!


心の中で強く念じる。
だけどその願いは虚しくボールがゴールの枠に当たる音が響いた。


外した


悔しくて俯いた瞬間、鳳の声と共に強い衝撃を受けて意識を手放した。






「…吉、日吉」


俺を呼ぶ声が聞こえる。

同時に誰かが頭を撫でていることに気づく。
優しい手つきでまるで壊れ物を扱うように撫でてくる手に安心した。

意識が浮上して、目を開けると眩しくて目を細める。

「起きたか」


頭に置いてあった手が離れて寂しく感じる。

もう少し撫でていて欲しかった

声のした方を見ると誰が撫でていたのか分かった。


「あと…べさん?」

「おはよう」


夕日に照らされた跡部さんの顔が優しい笑みを浮かべる。
心臓が高鳴る。
柄にもなく見惚れてしまった。

いつも偉そうな顔しか見たことが無かったからこんな優しい表情も出来るんだと思った。


「ここは?」

「保健室だ。気を失って運ばれたんだよ」

「そうですか…ッ」


起き上がろうとすると頭が激しく痛んだ。
思わず顔が歪む。


「まだ横になってろ」


ベッドに戻されると同時に跡部さんが俺の上にいた。
所謂押し倒されている状態になっている。

訳が分からない
何でこんな状態になっているんだ…

跡部さんの方を見ると悲痛な表情をしていた。

驚いて無意識の内にそっと手を跡部さん頬に伸ばしていた。


「…どうしたんですか?」

「…お前がいなくなるかと思った」


言葉が出なかった。

伸ばした手の上に跡部さんの手が重なる。

強く握り締められてこの人がどれだけ不安なのかが伝わってくる。

こんなに弱ってる跡部さんは初めてだ

いつも毅然とした態度で誰にも物を言わせないような雰囲気を漂わせている人。

だけど今は何かを恐れて不安に駆られているいつもより幼い人。

この人をこんな風にしたのは俺か…

そう思うと少しの切なさとこんなにも心配してくれたという嬉しさが沸き上がった。


「跡部さん、俺は貴方を置いて行くことなんてありません」

「そうとは言い切れないだろ」

「いえ、言い切れます。だって貴方のことがこんなに  なんですから」

「…本当お前には敵わねぇよ」


きっと俺は今、一番幸せな顔をしてるだろう

だってこんなにも思ってくれる人が側にいるから

絶対、世界で一番幸せに決まってる


「俺もお前のこと愛してぜ」

「はい」








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