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□伍千打記念
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体が熱くて鉛にように重い。
感覚が無く、視覚がぼやけている。
今、自分がどうなっているのか分からない。

確かさっきまで真田副部長と試合をしていた様な気がするけどよく覚えてないや。

ようやく視界が明るくなってきた。


気の済むまでキスをして



「おい、赤也!」

「・・・ん、ひ・・・よし・・・くん?」

「赤也!気がついたか?」

「俺・・・どうしたんだっけ?」


目を開けたら今にも泣き出しそうな顔をした日吉くんがいた。

眉を顰めて瞳から零れそうな水を必死に止めようとしている。
胸が締め付けられるような感覚になる。

力の入らない腕を日吉くんの頬に持っていき涙で溢れている目尻を拭う。


「日吉くん…」

「馬鹿赤也!どうしてそんなに自分が傷つくまでやるんだよ」

「・・・ごめん」

「お前が・・・暴走して倒れた時、体が動かなくなって赤也が何処かに行ってしまうような気がした」


怖かった
そう俯きながら切ない声を出す日吉くんを抱きしめたい。

けど使えない俺の体は起き上がる力が無くただ慰めるように日吉くんの頬を撫でることしか出来ない。


「…ごめん」

「…もう二度とするな」

「うん。もう日吉くんのこと泣かせないから・・・悲しませたりしない」

「だったら許す」


乱暴に目を擦って涙を隠そうとしている日吉くんにすごくキスしたい。
そして抱きしめて安心させたい。

大分感覚の戻ってきた体を起こす。
肩を支えてくれる手が暖かい。
日吉くんの目を覗き込み徐々に顔を近づけてゆく。

あと数センチで唇が触れあうというところでぴたりと止める。

お互いの瞳を見つめあい二人だけの世界にいるような錯覚になる。


「なぁ、日吉くん」

「何だ?」

「もし、俺がまた暴走しそうになったら…」

「なったら?」

「止めてくれる?」


沈黙が流れる。
そこだけ時間が止まってしまったようにすら思う。

それでも只ひたすら日吉くんの目を見ていた。
日吉くんも目を逸らさずに瞬きをたまに繰り返すだけでずっと俺のことを見つめている。

日吉くんの口がゆっくりと動き言葉を紡ぐ。


「もしお前がまた暴走しようとしたら…」

「・・・」

「俺が、殴って目を覚まさせてやるよ」


挑発的な笑みと共に目元が優しく緩むのが分かる。
その笑みを見て俺もつられて笑ってしまう。

二人してしばらく笑い合う。
額と額をくっ付けてお互いの目を再び見つめる。


「好きだよ。日吉くんは?」

「さぁな」


どちらともなく唇を近づけ小さく口付ける。
少しでも優しさが伝わるように啄ばむように、触れるだけの温かみのあるキス。

誓いのキスなんて洒落たものじゃないけれどこれからの二人に対する祝福のキスになるといいななんて頭の中で思ってしまった。





























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