長話
□3
2ページ/7ページ
「おまたせしました、コーヒーです」
テーブルの上に音をたてないで注文されたものを置く。
目の前の人物はそれをじっと見た後に一口呑む。
少し動きが止まったなと思ったら信じられないとでも言いたげな目をこっちに向けてきた。
「美味い・・・」
「でしょう!だから言ったじゃないですか」
「ふっ!やっぱりお前面白いな」
「・・・お客様の前で大変失礼しました」
思わずはしゃいでしまったことを後悔しつつ、満足気に笑って見せた。
やっぱり好きなものを褒めてもらうのは気分がいい。
跡部さんは何が面白いのか分からないけど、笑いながらこっちを見ていた。
目の前にいる自分がアイドル。
実感があまり無いからなのか今でも余り信じられていない。
俺以外の誰かがこの状況になってもきっと俺みたいに信じられない気持ちになるだろう。
「お前、未だに俺が芸能人だって信じてないだろ」
「何で分かるんですか」
「顔に書いてあんだよ・・・今日は何時に終わるんだよ」
「え?多分10時位には」
「じゃあ終わるまで待っててやるからすぐ来いよ」
「は?」
話が掴めなくて跡部さんに何のことか聞こうとしたら目の前で個室の扉が閉められた。
相変わらず傲慢な態度に腹が立つ。
のうのうとしているだろう人物に扉越しに睨みつけてカウンターの方に戻った。
.