倉庫
□君の笑顔で
1ページ/2ページ
誕生日は自分が主役になれる日。
昔は自分がまた一つ大きくなったように思え、誇らしげに色んな人に言いまわった。
母が言うに門下生の人にまで言っていたらしい。
その様子が可愛かったようで今日でもまだ覚えられている。
中学に上がってからは誰かに祝われるのが恥ずかしくて、誰にも言わなかった。
だから誰も知らないと思っていた。
たとえテニス部の人たちでさえも。
************
寒い。
体を温めるため少し小走りで部室に向かった。
途中同じクラスの奴から「おめでとう」と言われた。
思い当たることがなく適当に返事したが何の事だかさっぱり分からない。
部室に近づくにつれ除々に騒がしくなっていく。
いつものことながら呆れてしまうが、先輩たちが早いなんて珍しいとも思った。
やっぱり今日なんかあったか?と思い部室のドアに手を置いた途端、ピタッと部屋の中が静かになった。
絶対おかしい。
恐る恐る入る姿を先輩たちに見られるのは癪なので堂々と入ることにした。
「こんにち…!?」
破裂音と色とりどりの紙吹雪で目の前が埋め尽くされた。
それだけならいいが紙吹雪の予想以上の重さに押しつぶされた。
全く意味が分からない。
むしろこの量は喧嘩売られていると捉えていいのか。
紙吹雪で埋められているので顔は見えないが上から向日さんと芥川さんの笑い声が聞こえる。
「おいやっぱり多かったじゃん」
「けどがっくんだってもっとやれって言ってたC〜」
「とりあえず若、助けんぞ」
宍戸さんらしき声がしたかと思えば勢いよく引っ張り上げられた。
そしてそのまま誰かに持ち上げられる。
「…鳳、お前この体勢は何だ」
「おお、いわゆるお姫様抱っこってやつやな」
「阿呆面になってるぜ」
「アンタのニヤけ面も十分酷いですよ」
鳳は嬉しそうに笑いながら俺を横抱きにしている。
何だこいつ、馬鹿にしているのか。
肘打ちすると呻きつつ解放された。
「みんな、日吉が困ってるだろ」
「滝の言う通りだな。じゃあ改めて」
『誕生日おめでとう』
部室に入ってきてからの一連の出来事に混乱していた俺は、その言葉を聞いてやっと理解した。
自分で自分の誕生日を忘れていた。
道理で親はにこにこしているし、兄貴はべたべたくっ付いてきてウザいし、クラスの奴らは頭撫でたりしてくると思った。
全て納得すると急に恥ずかしくなってきた。
「何そんなに盛り上がってるんですか。早く練習しますよ」
「うっ…流石日吉。動じねぇ」
「反応なくてつまんないC〜」
着替えるために自分のロッカーを開ける。
後ろで向日さんと芥川さんが文句を言っているが無視する。
他の面々もやっぱりと思っているらしく苦笑している。
「日吉はやっぱり動じないんやな」
「あーん?何言ってやがる。いつもより素直じゃねぇかよ」
跡部さんが面白そうに笑っているのが分かる。
悔しいが顔をそっちに向けられない。
向けたらバレてしまうから。
「どういうことだ?」
「ただ照れてるだけじゃねぇか」
身体が反応してしまう。
みんなの視線が自分に向いているのが分かる。
「あー!ひよ、耳まで真っ赤だC」
「ほんまや」
「照れてるだけだったのか」
「日吉が照れてるの初めてみました」
「お前よく気づいたな」
「当然だろ」
「僕も気づいてたよ」
ただでさえ顔から火が出るかと思うぐらい熱を持っていたのに、更に赤みが増したように感じた。
恥ずかしすぎてこの場から消え去りたい。
「こういう所が可愛いんだよ」
「日吉は元から可愛いよ」
「〜〜っ余り揶揄しないでください!!」
我慢できずに振り向いてしまった。
ニヤニヤと笑う顔にハッとした。
騙された。
「やっぱりこっち向いたな」
「ひよかわE〜」
「本当に真っ赤だな」
自分を囲み楽しそうに騒ぐこの人たちに段々冷めてきた。
自分だけ必死で逆におかしく思えてきたのかもしれない。
けどやっぱり照れくさくて顔は下に向けたままにしておく。
「樺地、ケーキ用意してくれ」
「ウス」
奥から樺地が普通のホールサイズの倍はあるんじゃないかと思われるケーキを運んできた。
「どうぞ」
小さく笑った樺地に驚いたのは黙っておこう。
「これ皆で出し合って買ったんだぜ」
「そうなんですか」
「最初は跡部だけが買おうとしとったんやけど何か悔しいやろ」
「俺もお小遣いだしたC〜」
どうやらみんなでお小遣いを出し合って買ってくれたらしい。
胸がジンとする。
この歳で誕生日をこんなに盛大に祝われると思わなかった。
恥ずかしいのもあるし、家族が祝ってくれるだけで十分嬉しかった。
けど自分の為に用意してくれたという事だけですごく幸せで泣けてきそうだ。
「あの」
「どうした?」
「その、こんなこと普段は言いませんけど」
「何だよ?」
「あ、ありがとうございます」
泣きそうに歪んだ笑顔だけど許してほしい。
幸せなプレゼントをありがとう。
君の笑顔で
(幸せをもらったのは僕等の方だ)
NEXT あとがき
●