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□どこへも行けない
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あたし達の乗り込んだ車両に他の乗客はいなかった。
時折蛇のようにしなる車体は、連結部分のドアについた窓からも人影を確認できなかった。

反対側の窓に暗闇を背負ったあたし達が映りこむ。
制服を着ているせいであたし達は真夜中の空気にうまく溶け込めていなかった。
拒絶、という二文字が思わず頭に浮かんで、打ち消すように息を吐く。

ネクタイを緩めながら榛名があたしの肩にもたれているのを何も言わずにいると、膝の上に置いていた手をとられて指を絡められた。互いの指にはめられたシルバーのリングが情けない音を立ててぶつかる。
榛名がどこかから調達してきて「おそろい」を強制されたものだ。
薬指にはめろと言われたから、あたしは言いつけを守って ちゃんと薬指につけてやった。右手の。

それを見た榛名は不服そうな顔をしていたけれど、そういう自分は気の向いた時にしかつけていなかったのでお互い様だと言えば、オレはいいんだよと持ち前の俺様精神で一蹴した。

「おまえいい匂いがする」

首筋に息がかかってくすぐったい。
耳元で話されるのも背筋がゾクリとするからあまり好きじゃない。
そうやってあたしの好みを抗議したところで、この人は何も聞こえない振りをして自分の好き勝手にするんだろうけれど。
この男がこういう人間だから嫌いで、こういう人間でなければきっと好きになどなれなかった。
麻薬のような恋は落ちたら最後、身が滅ぶまで溺れるしかない。

「どこ行くつもりなの?」

「天国」

「ばっかじゃないの、あんたみたいのが天国に行けるとでも思ってるわけ?」

「さあ」


闇を縫って電車は進む。
あたし達はどこへ向かっているんだろう。
どこに、辿り着けると言うのだろう。

「地獄でもいいぜ」

「なにそれ」

「おまえと一緒ならどこでもいーんだよオレは」

「あたし頭悪いからどっちも行き方知らないよ」

「オレも知らねーよ」


あたし達、行きたい所がわからない。

榛名もあたしも脳みそ空っぽだからどこへも行けやしない。
深い夜に身を隠したってつないだ掌しか隠れやしないのに、それでも、もがくようにして遠い所へ行きたがる。
二人だけの、誰もいないどこかを求めて。



終着駅は、もう見えていた。


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