想像絵本
□完全なる円と欠けたるもの(完結)
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『完全なる円と欠けたるもの』
作:新名在理可
(序)
彼は、何も欠けたところがなく、全てが満たされて、安らぎの中でまどろんでいた。
彼と世界は一体で、彼と世界との区別はなかった。
ある時、彼の近くに無がやってきた。
無は、彼に言った。
「私には何も無い。けれど君にはそれがある。だから私は君が欲しい」
そう言われても、彼には無の言葉の意味がわからなかった。
彼は、全てが自分の中にあったので、外の事には無関心だった。
無は、彼を飲み込んでしまった。
けれど、無はそれで満たされることはなく、彼が飲み込まれた無の中にあって、無のままだった。
無に飲み込まれた彼は、別に何ともなかった。
始めから何も無かったかのように、彼はただ独り、そこに居た。
彼には全てがあったから。
けれど……。
彼は、無が自分を求めて飲み込んだように、何かを求めてみたいと思った。
彼には全てがあるから、外に求めるべきものはないのだけれど。
ならば、彼は分かれようと思った。
彼はいくつにも無数に分かれた。
そして、彼は、分かれた自分たちを探す旅へと出た。
彼を飲み込んでいた無は、彼が旅する宇宙となった。