想像絵本

完全なる円と欠けたるもの(完結)
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『完全なる円と欠けたるもの』

作:新名在理可


(序)

 彼は、何も欠けたところがなく、全てが満たされて、安らぎの中でまどろんでいた。

 彼と世界は一体で、彼と世界との区別はなかった。


 ある時、彼の近くに無がやってきた。

 無は、彼に言った。

「私には何も無い。けれど君にはそれがある。だから私は君が欲しい」

 そう言われても、彼には無の言葉の意味がわからなかった。

 彼は、全てが自分の中にあったので、外の事には無関心だった。

 無は、彼を飲み込んでしまった。

 けれど、無はそれで満たされることはなく、彼が飲み込まれた無の中にあって、無のままだった。


 無に飲み込まれた彼は、別に何ともなかった。

 始めから何も無かったかのように、彼はただ独り、そこに居た。

 彼には全てがあったから。

 けれど……。

 彼は、無が自分を求めて飲み込んだように、何かを求めてみたいと思った。

 彼には全てがあるから、外に求めるべきものはないのだけれど。

 ならば、彼は分かれようと思った。


 彼はいくつにも無数に分かれた。

 そして、彼は、分かれた自分たちを探す旅へと出た。


 彼を飲み込んでいた無は、彼が旅する宇宙となった。





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