物書き置き
□飛躍した話
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掃除の時間。私と親友の湯希で黒板消しについたチョークをベランダではたいていた。夏休みを間近にして気温が上がり、つい前まで満開だった校庭の桜が緑の若葉をつけはじめていた。
「もうすぐ、夏休みだね。湯希は何か予定はあるの。」黒板消しをパタパタとはたきながら聞いた。
「そうだね。まずは買い物でしょ、それから海でしょ、プールに花火に旅行に……。」瞳を輝かせて沢山の予定を挙げた。その中に宿題など勉強する予定は全く入っていなかったが。
「湯希らしい……。湯希。どうしたの。大丈夫。」急に顔色が真っ青になり、その場にうずくまった。息も荒くなった。さっきの体育のマラソンで男子顔負けの記録を作った人とは思えなかった。
「ご、ごめ……ん。」弱々しく言って、それから激しく咳き込んだ。異常を察したクラスメイトが担任と保健室の先生を呼びに行った。
保健室の先生は、担任に救急車を呼ぶように指示した。
帰りのホームルームで、湯希の入院が伝えられた。信じられなかった。原因がチョークの粉が喉に入ったから。話が飛躍しすぎだ。あんなに活発で優しい湯希が、そんなことで入院してしまうなんて思えなかった。
ふと疑問がわいた。もし、このクラスの中に湯希を疎ましく思っている人がいて、彼女を殺すために黒板消しに毒をつけたのではないか。人数は一人、いや、グループ、それとも、私を除いた全員かもしれない。もしくは、他のクラスや教員まで巻き込んだ殺人計画だとしたら。何も覚えのない私がいつの間にか、殺人計画に一役買っていたのかもしれない。
この日から、行き交う人全てが敵に見えた。親友のために見えない敵と戦う決心をした。