戦国幸佐

□熱いのは誰のせい?
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「立入禁止?」

何この貼り紙。


主、真田幸村の部屋の前に、書き殴られたような立入禁止の文字。
また、旦那が考えついた新たな遊びだろうか。
「忍びには適用外っしょそんなの」
呆れたように溜息をつき、貼り紙を無視して佐助がガラリと襖を開けた途端。
「ならぬ、入るな佐助! 命令だっ!!」
焦ったような主の大声が部屋に響いた。



   ≪熱いのは誰のせい?≫



びっくりして襖を元通りに閉めて、佐助は足をぴたりと止めた。
「旦那・・・?」
「おぬしはここへは来るな! 俺から命あるまで待機していろ」
「え・・・」


「・・・仰せのままに」


幸村の、そのあまりの剣幕に。
そう一言だけ告げ、佐助は足早に主の部屋を後にした。
違和感を感じるも、そうすることしか今の佐助には出来なかった。
だって。
主の命令は絶対なのだ。
「命令」という言葉が大嫌いな旦那。
嫌いだから、普段絶対遣わないのに、なのにこのタイミングで自らが使うなんて・・・。
「なんなんだよ・・・。」
任務に出ていたほんの数日だ。
この短期間に、一体真田幸村の身に何が起こったのだろうか・・・。



武田信玄からの特命を済ませ、すぐに上田に戻ってきた。
いつも心配そうに佐助を送り出し、佐助の帰りを待っていてくれるから、一刻も早く幸村の元に帰りたかった。

いつもはぎゅっと抱き締めてくれるのに。
おかえりと言って、労ってくれるのに。

任務完了報告すらさせてもらえないなんて、今までこのかた一度だってなかった。
理由もわからぬまま、自分自身を拒絶されたのだ。
その事実に、佐助は自分の心が暗く沈んで行くような感覚に陥った。



   * * *



「・・・け。佐、助ぇ・・・」


こっそりと天井裏から主の様子を見に来た佐助は、床に伏せる幸村を見て、絶句した。
そして、あまりにも冷たい仕打ちだと思わざるを得なかった、先程の幸村の行動の理由を、佐助はようやく把握したのだった。

「お馬鹿さん・・・」

立入禁止令と貼り紙は発令されたままだけれど。
確かに今、幸村は自分の名前を呼んだ。
だからいい、
呼ばれたんだから、自分はこの部屋に入っても構わない。
勝手にそう解釈をし、佐助はひらりと音も立てずに幸村の枕元に降り立った。

「さ、す・・・け・・・」

譫言で人の名前呼ぶ位なら、最初から人払いなんかしなければいいのに・・・。
旦那の笑顔が見たかった。
なのに、旦那の部屋に入る事も叶わず、払われたから。
だけど、事の顛末を理解してしまったら、佐助の胸がじんわりと暖かく、そして少しだけ痛くなった。
淋しかった、んだと。
不意にそう気付いた。

目の前に居るのは、明らかに風邪を引いて寝ている主の姿。

佐助に不甲斐ない姿を見られたくなかったのか、はたまた佐助に病をうつさないが為の人払いだったのかはわからない。
だけど、何度も熱に浮かされながら「佐助」と名を呼ぶその唇を、静かに佐助がなぞった。
「・・・そんなに大事にしてくれなくていいのに・・・」
俺様忍びよ?
そう呟きながら、汗の浮いた熱い額に手を当てると、ひんやりと気持ち良かったのか、佐助の手を握り締めてきた。
「熱いなあ・・・」
ねえ旦那、
風邪は人にうつすと治るって言い伝えは本当かな。
試してみる価値はあるよな?
立入禁止の命令を破ったお咎めは、今度受けるよ。
だけどあんたが悪いんだぜ、
主のくせに部下に心配かけるから・・・。
「早く良くなってよ」
願うように語り掛けると、佐助は優しく食むようにして、幸村のその真っ赤な唇に口付けた。



   * * *



「さーすぅーけぇー!!」
バンッ、と派手な音を立てて、佐助の部屋の襖が開かれた。
「だ、んな・・・」
「具合が悪いというのは誠でござるか!?」

翌日。

何故か驚異的な回復力で風邪を治した幸村が、忍隊の詰所を訪れていた。
「何だ、佐助も風邪をひいたのか?」
幸村の反応から、昨夜の事は本当に覚えていないようだ。
つまりは佐助が幸村の風邪を吸い取った、という行為はどうやら願う方向に傾いてくれたようだ。
心配そうに顔を覗き込んで来る幸村に、自分がその唇に触れてしまったことを思い出し、かあっとと佐助の頬が熱くなる。
「顔が赤いぞ佐助、熱があるのだな」
「駄目だよ旦那・・・うつるから・・・出てって、悪いけど」
「大丈夫だ」
「?」
「俺は寝てれば、1日で風邪は治るらしい」
日頃の鍛錬の賜物だな、と笑う幸村に佐助は頭を抱えたくなった。
「ちょっ・・・んっ・・・ふ、・・・」
不意に幸村に口付けられ、どくんと佐助の鼓動が脈打った。
「旦っ、駄目だって・・・」
唇を離すと上目遣いに幸村を睨み付けた。
「気にするな、俺にうつせ佐助」
俺はすぐに治るのだからな、などとほざく幸村に、まさか自分が風邪を貰ってやったのだと言えるわけもなく。
「なっ・・・どこ触っ、やめっ・・・」
口付けだけじゃ飽き足らず、寝着の内側に侵入してきた幸村の手に、ぎょっと佐助が目を丸くする。
「なんだ、全然汗を掻いておらぬではないか」
意味深な幸村の言葉に、佐助の背筋に嫌な汗が一筋伝う。
「や、大丈夫だから、寝てれば治っ・・・・・・ッッ!!」
嫌な予感は的中、
佐助をぐいと引き寄せると、滅多にない佐助の熱い身体を強く抱き締めた。
「旦那、熱いって・・・」
「おぬしの方が熱い」
いつもとは逆だな、と言って微笑むその笑顔にすら一気に熱が上がった気分になる。
いつだって、自分のこの熱を上げるのは旦那なんだ。
無理はさせたくないと言いながら、佐助の身体に手を這わせていく幸村の熱に、また絆されてしまう。
このまま旦那に抱かれちゃったら、明日はどうなるだろう。
旦那の言う通り、治るだろうか。
逆効果な気は重々にしているのだけれど。

でも。

このまま熱が上がろうが、風邪が悪化しようがどうでもいいや、だるいし、熱いし、もうなんか何も考えたくない。
諦めたように弱々しく幸村の寝着の裾を握り締めた佐助に、短く一言「すまぬ」と告げると、優しく佐助の身体を横たえた。

欠片程度に残っていた佐助の理性が途切れたのは間もなくの事だった。



― End ―

相互記念に書かせていただきました。
風邪ネタはベタなので、他の方の作品と内容が被ってたらどうしよう・・・とちょっとドキドキしてます。
が、単純なこの頭で必死こいて考えたオリジナルです、それだけは断じて嘘じゃない(笑)
鴻劉さまに捧げます。

■ 2009/02 執筆。


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