戦国幸佐

□幸福の条件
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≪幸福の条件≫


あ・・・今、笑った。

茶をすすり、団子を頬張る幸村が、縁側でにこにこと笑顔を浮かべている。
木の上からその光景を眺めながら、佐助はふっと口端を上げた。
幸せそうだな・・・。
そんな顔を見ていたら、ふと幼少時代の主にされた質問を思い出した。

『さすけの幸せとは何だ?』

そう問われて、佐助は心に刻みつけられている、忍びとしての幸せの条件を、そのまま若き主に伝えた。
主の思うがままに動ける武器となる事。
主に生涯をかけて尽くし抜く事。
主の為に死ぬ事。
「この3つですよ」
そう答えたら、確か凄く悲しそうな顔をしたから「つまりはずっとお側に居ますよって事です」と、言い直したのを覚えている。
今、同じ質問をされたとしても、きっとまた自分はそう答えるだろう。
だって。
戦のない、こんなのどかな日に、幸せそうな旦那を見ているのにささやかな幸せを感じている・・・なんて誰にも言えないでしょうが。
「佐助!」
ふいに呼ばれた声に即座に反応する。
ひらりと幸村の前に姿を現した。
「ん、」
串にさした団子を口元に向けられ、反射的に思わず口を開けてしまう。
「ちょ、旦那っ」
「なんだ、もっとか?」
「・・・じゃなくて、あのねぇ〜・・・」
なんで主にあーんして団子を食わせて貰わないといけないんだ。
ほんのりと目許を染めて、軽く幸村を睨みつければ、嬉しそうに笑って抱きしめてくる。
「今日は良き日だなっ、佐助」
「ん、そだね・・・」
「佐助は今、幸せか?」
「へっ・・・?」
「教えられた幸せではないぞ? 佐助が幸せだと思える事・・・見つかったでござるか?」
「っ・・・」
なんで・・・。
「ふとな、昔の事を思い出したでござるよ」
「マジで・・・?」
偶然?
「俺にとって、佐助は道具などではないぞ?」
「旦那・・・覚えてるの?」
「忘れるわけござらんよ」
優しい瞳で見つめられると、心ごと、その熱に包み込まれてしまいそうな気になった。
「あの日から、某はどうしたら佐助が幸せでいてくれるか、笑ってくれるか・・・考えるのはそればかりだ」
強くなりたい、
そう願うのはお館様の為でもあるが、他に理由があることなど、佐助は絶対に知りえないだろう。
「佐助が道具だと言うなら、道具など必要なくても戦い抜ける位、鍛錬しよう、」
「っ・・・」
「佐助が生涯を賭して俺に尽くすと言うなら、俺はその存在を生涯を賭して守り抜いてみせる」
抱き締める腕に力がこもる。
「佐助が俺の為に死ぬのが幸せと言うなら、そんな心配蹴散らす位、強くなろう」
「旦、那・・・」
「そう決めたんでござるよ」
「なんで・・・」

あーもー駄目だ、
あんた格好良いよ、格好良過ぎ。
口説こうとして言っている意図がないだけに、タチが悪い。
「ん?」
「なんで、たかが部下の、お抱えの忍びなんかにそんな・・・!」
あんたがそんなだから。
だから、他の部下はあんたを慕ってる。
だけど、俺様はそうじゃない・・・。
完全に絆されてるんだよ・・・。
悔しそうに唇を噛み締め俯くと、幸村の両手が佐助の頬を優しく包んだ。
そしてゆっくり顔を上げさせると、唇が重なった。
触れるだけの、拙い口付け。
それだけなのに、佐助の身体は芯から熱くなる。
「おぬしがどう思おうが聞かぬ。俺にとっては佐助は佐助だ、ひとりの大切な人間でござるよ」
「え、ちょっ・・・待っ・・・」
そのまま、気付いた時には、佐助の身体は幸村に組み敷かれていて。
今度は意思を持って、幸村が佐助に触れてくる。
「ん・・・っ」
求める為の口付けを、口腔深く受け止めながら、佐助はその広い背中に腕を伸ばした。



幸せは、こんなに近くにあった。
手を伸ばせば簡単に届くのに、その手は伸ばしてはいけないと考えた。
なのに、この主は佐助の苦悩や葛藤など無視して、真っ直ぐに心の臓に飛び込んでくる。

ほんとにもう、
(いい加減にしてよ旦那・・・)
自分が忍びで在ることを忘れさせるような、甘い甘い誘惑。
もう、
幸せ過ぎてどうにかなりそうだよ。




― End ―

■ 2008/12 執筆。
お題提供:マヨヒガ様。
(擦れ違う二人の心で・9/10題)


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