戦国幸佐A

□逆巻けば恋心
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※ BASARA3〜宴〜 の佐助ストーリーから妄想してます。



  ≪逆巻けば恋心≫



真田の旦那を「真田の大将」と呼んだあの日。

俺様は武器に戻った。
甘ったれた時間はもう終わりなのだと。
共に戦う・・・なんてのは所詮は夢物語、
いい加減、俺様の使い方を学習しろよ、と。

あの時の旦那の顔は、未だ脳裏に焼き付いて離れない。

そして、それを思う度に、思い出す。
あの日の、あの胸の痛み。
自分の「人」としての最後の痛み。

今はもう、自分は人じゃあないのに。
どうしてこんなにも苦しいんだろう・・・。



   * * *



真田の大将はさぁ、本当は天下統一とかどうでもいいんだよ。

お館様が好きで、甲斐が好きで、その生活を営む民が好き。
ただそれだけなんだよ。

実際 大将ってタイプじゃないしね、
どっちかと云えば、策ある軍師に使われて伸びる子っていうかさ。
お館様もさぁ、旦那の自立心向上目的とはいえ、すっげぇ博打を張ったと思うんだよな。
・・・真田幸村に後見を任せるなんてさ。


・・・正直、衰退していく武田を見ているのは辛いよ、毎日苦しんでる旦那を見てるとこっちも息苦しくなるよ。
だいぶ頼りなくなっちまったその背中をぎゅっと抱き締めて「平気平気〜、俺様がついてるからさ、一緒に頑張ろうよね〜」、とか言ってやりたくなるよ。

でも、それじゃあ駄目なんだ。

旦那を甘やかす事は、旦那の成長の妨げになる。
旦那に一人前になって欲しいと願う、お館様の意図を崩してしまう。
「だから・・・さ、」
心を繋げて、身体を重ねて。
人間の体温を分け与えてくれた、自分を人に戻してくれた旦那の為に。
あの日、決別の言葉を吐いた。
酷く残酷な、言葉を。
だって決めたから。
「再び武器に戻るって決めたんだよね〜・・・・・・って、人の話、聞いてる?」
「・・・・・・。」


相模と甲斐の国境付近。


もの云わぬ密会者に向かって、猿飛佐助は小さくため息を洩らした。
「・・・それなのに旦那ときたらさ、相変わらず甘ちゃんだわ伊達政宗に上田城は乗っ取られるわで、全く去年は散々だったよ・・・・・・でもさ、」
「?」
「旦那の瞳は、まだ・・・死んでないんだよね、」
流れ行く日常に、必死で抗い、食い下がっている。
「・・・・・・。」
隣りに座る男は、相変わらず何も言わない。
けれど、場を立ち去る事もしない。


今日、此処で佐助と会ったのは、とある品の受け渡しの為だった。


だから任務を完了させた今、直ぐにも姿を眩ませて良かったものを・・・全くもって不思議な男だ。
「悪いね、愚痴っちまった」
全くガラじゃないよな、と苦笑しながら佐助はゆっくりと立ち上がった。
「さて、と・・・そろそろ帰りますかね」
実際、この品は早く届けなきゃならない代物なわけで。
こんな所で長居もしていられなかったのだ。
「・・・・・・。」
佐助が動きを見せると、男も自領の方へと身体の向きを変えた。
「あ、風魔!」
一瞬の間に隣りの木の枝に飛び移った彼を、慌てて佐助は呼び止める。
「?」
内心まだ何かあるのか、などと思っているのだろうか。
自分も忍びだから、無表情は専売特許とはいえ、北条の忍び、風魔小太郎のそれもまた完璧だ。
「いつも、ありがとな」
佐助の声に、小太郎はただ頷く。
「北条のジィサンにも御礼言っといてよ、この薬のお陰でうちのお館様、完全復活目前だぜ?」
また、頷く。
「ときにジィサンの具合の方はどうなんだよ、腰痛? 水虫、リウマチ・・・あれ、脚気だっけ?」
そしてやっぱり、小太郎はただ頷くだけだった。
「・・・・・・。」
風魔もだが、北条も不思議な男だと思う。
昔は、武田と同盟を結んだ事もあったらしいが、日の本が東と西に割れ、今や北条は敵軍だ。
なのに、北条氏政は未だに病床の武田信玄に、薬を届けてくれる。
(それが人の情ってやつか・・・)
今の自分には邪魔にしかならないのに。
ほんと、理解し難いや、と。
そう思いながら「じゃあな、」と別れを告げて見れば、一瞬にして小太郎は姿を消した。
「あらま〜淡泊なこって・・・」
そう、
これが忍びなんだと、再認識させられた気になった。
そして、佐助も甲斐に戻るべく自身を高く跳躍させた。



・・・。


・・・・・・。


・・・・・・・・・。



「はぁっ!?」

上田城に戻った佐助の開口一番は、先ほど『忍びの専売特許』と謳った筈の、無表情を覆す奇声、だった。
「ちょっ、どういう事だよそれっ!」
思わず相対する真田忍隊の由利鎌ノ助の胸倉を掴んでしまうくらいには、佐助は動揺していた。

「大将がいないって・・・・・・いつからだよっ!?」



武田の屋敷に薬を届け、佐助が上田に戻ったのは、まだ朝日も昇らぬ時間だった。


当然、当直の忍び以外は誰もが眠りの底に居る時間帯。
そして。
唯一、佐助が『佐助』で居られる時間、だった。

(・・・馬鹿、みたい・・・)
自分から切り離したくせに。
主と従者の関係に、無理矢理戻したくせに。

それでも旦那が毎日、今日その日を充実して過ごせたか、その寝顔は安らかであるか、そんな事ばかりが、気になる。
特に今宵のように、屋根裏で幸村の警護につけない時は、尚更で。
だから、寝顔だけ拝んで場を離れようと、天井裏からこっそり幸村を覗いた時だった。
「!!」
幸村が目を覚ましたのだ。
いや、正確にいえば、佐助の気配に反応を示した影武者の忍び、だったのだ。
「長・・・・・・?」
と。
そして事件は起こったのだった。



上田城から主が消えた。



そんな事、あるわけないし、あっちゃあいけない。
なのに。
なのに!!!
「何で誰も行き先を知らないんだよっ!?」
すぐさま佐助は天守閣の屋根上から、忍びを集めた。
「いつから・・・」
そして、真田軍忍隊にあるまじき現状を、知らしめさせられる事となった。
「いつから居なくなってるんだよっ!? なんで誰も気付かなかった!!」
忍隊の面々と、そして真田が誇る十勇士と呼ばれる忍びまでもが、その詳細に関して、一切不明だったのだ。
「警戒してなかっただけだよっ!!」
たまたま近くにいた、というだけで佐助に乱暴に胸倉を掴まれた由利鎌ノ助が、怒鳴り返す。
「あんたと一緒だと思ってたんだよっ! だったらそんなん、いちいち気になんかするかよっ!!」
そのまま佐助の腕を乱暴に払い落とし、鎌ノ助は真っ向から佐助を睨み付ける。
「・・・つか、長こそ何処行ってたんだよ・・・」
とりあえず互いを落ち着かせようと、声音を荒げないように静かにそう問いてきた鎌ノ助に、佐助は言葉を返す事が出来なかった。
「・・・お館様の密命で動いてたんだよ、」
かろうじて、言葉を濁して返答するのが、今の佐助の精一杯だった。
何故なら、密命は他言無用厳守であるからこそ密命なわけで。
だからこそ、仲間の忍びにも話せずに、相模との国境くんだりまで単身赴いていたのだから。
「・・・・・・で?」
「で? って何」
「捜索の守備はどうなってるって聞いてんの」
「だから、長と一緒に居ると思ってたんだ、探すわけねーだろーが! ちょっと落ち着けって長、」
「っ・・・・・・。」
鎌ノ助の言葉に、ハッと佐助は我に返る。
「ごめん・・・」
どうやら自分で思うよりも、はるかに動揺し、そして自我を露わにしていたようだ。
それは、言い争う二人を見て、僅かな怯えを浮かべる他の忍び達の気配で、そう感じる事が出来た。
「本当・・・ごめん、」
「別にいいけど」
再度 謝罪を述べた佐助に、やっといつもの佐助に戻ったと悟ったのだろう。
鎌ノ助もホッと肩から力を抜いた。
「今夜の警備は・・・」
佐助の言葉に、ひとりの忍びが一歩前に出た。
真田十勇士のひとり、穴山小助の配下の忍びだった。
統率者である小助本人の姿が此処にないのは、幸村の影武者として寝室に控えているからだ。
「すみません、自分の不注意でした!!」
その小助の配下の忍びが、怯えたように佐助の前に跪いた。
「え・・・・・・?」
「最後に幸村様のお姿を確認したのは、戌の刻でした」
戌の刻、いつも幸村が眠りにつく少し前の時間帯だ。
だがその忍びによれば、今宵の幸村は布団に足を運ぶ事はなかったらしい。

幸村は天井裏に向かって「佐助、」と声をかけた。
そしてその直後、幸村は部屋を出て行った。
忍びはそれを小助に報告した後、いつものように小助が幸村の身代わりとなり、今に至っていたのだ。

「本当に申し訳御座いませんっっ!!」
「いや・・・」
幸村と佐助、
ふたり、示し合わせての外出だと、忍びは、そして小助もそう思ったのだ。
(それって・・・)
主の不在、佐助にとっての一大事。
それは。
「俺様の、せいじゃん・・・」
それは、この城を守る忍び達にとっては、いつもの日常だったのだ。
(最低だ・・・)
自分に怒りが込み上げる。
「ごめん、俺様が普段から軽率な事ばっかしてたから・・・だよな」
最初に忍び達を怒鳴りつけてしまったのは、動揺してしまったからで。
「いつも、勝手に外出してたもんな・・・こんな時だけ・・・全く調子良すぎるよな・・・本当に、申し訳ない」
決して忍隊の仲間を信じてないわけでは、ないのだ。
寧ろ佐助にとって、彼等は何よりも信頼のおける精鋭だ。
そんな彼等を、動揺していたとは云え、頭ごなしに怒鳴りつけてしまった事を、佐助は心から後悔した。
深く深く、頭を下げた忍隊長に、周りの忍び達は、思わず言葉を失う。
が。
「馬ッ鹿じゃねーの」
と、下げた頭をガツンと殴られ、佐助はよろける。
殴った奴は言わずもがな、だ。
「『長』が軽々しく頭なんか下げてんじゃねっつの、」
「由利・・・」
「幸村様の無茶苦茶な行動も、あんたに振り回されんのも、今に始まった事じゃねーだろ」
それより今は幸村様捜索、だろ。
そう言って鎌ノ助は笑った。
そんな彼の言葉に、一気に場が和んだ気がした。
(みんな・・・笑ってる、)
主が失踪したというのに。
彼等は、それ程に落ち着いているのだ。
「・・・・・・、」
佐助と出掛けたと、そう思っていた位だから、少なくとも敵襲を受けたわけではない。
他国の忍びに侵入された形跡も、ない。
もしそんなのがあれば、佐助が戻った時に真っ先に報告に上がっていた筈だ。
という事は、とどのつまり・・・だ。
「自主的失踪・・・・・・的な?」
「まあ・・・そういう事に、なるんじゃね?」
一番口にしたくなかった最悪な予想に、鎌ノ助が苦笑で応える。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・あの馬鹿主・・・っ」
握り締めた拳が震えるのがわかった。
「・・・あまり事は荒立てたくない、俺様がひとりでに探してくる」
「了解、」
「無理そうだったら呼ぶから・・・影武者はそのままたてといて」
「はいよ、」
「念の為、怪我の対処も出来るように・・・
「任せなって」
いいから早く行けよ、
とでも言いたげに、佐助から言葉尻を奪った鎌ノ助はひらひらと手を振った。
「じゃあ・・・任せたからっ、」
「行ってらっしゃーい」
募る焦りを悟られる前に・・・と言っても既に後の祭りではあるのだが、兎にも角にも佐助は城を飛び出した。



・・・・・・・・・。



あの馬鹿主馬鹿主馬鹿主馬鹿主・・・っ!!

(頼むから・・・)

無事で居てくれ・・・!



鴉を飛ばし、自身もまた、幸村の行きそうな場所へと佐助は足を動かす。

遊郭・・・・・・は、
(・・・絶対、無いな・・・)
茶屋や甘味処・・・も、こんな時間にやってはいない。
が、酒場ならもしかしたら・・・、だ。
たまに小山田の兄さん達と朝まで呑んでたり、するし。
でも、だったら忍びに一声かけるだろうし・・・。
(あぁもうっ・・・)
ああでもない、こうでもない、と。
「あ・・・・・・、」
いろいろ考えて、ふと佐助は思考を止め。
(そういえば・・・)
気付いてしまった。
いつぐらい、ぶりだろう。
(俺様・・・・・・、)
真田の大将の心配を、している。
「・・・・・・。」
幸村の、大将としての采配や軍略の心配ではなく。
真田幸村その人個人の、その御身の心配を、だ。
「旦那・・・、」

幸村は、なぜ城を抜け出したのだろう。
その重責に雁字搦めにされた頭で、何を考えての行動だったのだろう。

・・・幸村の考えている事がわからない。

けれど。
幸村のこの無断外出が他でもない、この佐助が一枚噛んでいる、という事だけは・・・理解、している。

幸村と距離をおいたのは自分。

特に、伊達政宗に一度 上田城を占拠されてからは、一度も会話をしていない。
けれど、それがこんな事態を引き起こす事になるとは思っていなかった。

もしわかっていたのなら。

・・・旦那と距離なんか置かなかった、のに。



・・・・・・あの日も、今宵のような、分厚い雲に覆われた夜だった。



任務から佐助が帰って来るのが遅いから、だから心配で城を飛び出した、と。
そんな理由で城を離れた幸村は。
その軍大将としてあるまじき軽率な行動により、政宗に上田城を占拠された。

あまりにも浅はかで未熟な総大将 真田幸村。
そしてその主君を、感情に任せて殴ってしまった佐助。

相手がこの男でなかったら、謀反行為もいいところだ。
実際、流罪どころか打ち首 切腹を命じられてもおかしくなかったあの暴挙に、佐助が罪に問われる事はなかった。
けれど、上田城を再び奪還してからは、どうにも気まずくなってしまい、佐助は完全に幸村から気配を断っていたのだ。

警護の時、外出の付き添いでさえも。
幸村の視界に入らないよう、佐助はただひたすら忍んでいたのだ。

「・・・・・・。」
じゃれあう事もない、
団子をねだられる事もない、
挨拶を交わす事すら、ない。
だからだろうか、
最近の佐助は心底 静やかに過ごせた。
正直、気が楽・・・だった。
本来 主従の在り方とはこういうもので。
ただ主の命令に従い、目の前のその存在を護るだけ。
誰にも干渉されず、余計な感情に邪魔される事もなく、ただ忍びとしての役割を果たす。
そんな、佐助が忍びらしく在られる日常を、久々に送る事が出来た。
だから先程、
大将の・・・真田幸村個人としての、その御身を心配した事に気付いた時、ある種の懐かしさが全身を擽ったのだ。

(旦那・・・)

あんなにわかりやすく突き放した、のに。

なのに。
それでも幸村は、今までと何一つ変わらぬ付き合い方を、まだこの忍びに要求しているのだろうか・・・・・・?
「・・・馬鹿じゃ・・・ねぇの・・・、」
そう思った時、自分の頭では理解し難い感情が、佐助の胸を直撃した。


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