二次創作
□【大切なあの人に想いをこめて】
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◆◆◆
「痛〜〜〜〜〜〜〜〜い」
三千院家の調理場で、少女の叫びがこだました。
「あらあら、大丈夫ですか?ナギ」
先ほどから、その様子を見守っていたマリアがナギに尋ねた。
泣きそうな目でこちらを睨んでくるは指を抑えている。
「大丈夫じゃない。痛いのだ。」
「じゃあ、止めますか?」
「んっ、止めないっ!!!」
ナギは指にばんそうこを貼られながら、その申し出を強く断った。
やれやれっ、と思うメイドさんは苦笑しながらも、だけど微笑ましく自身の主を見つめる。
―まったく、この子は
マリアは思う。
この少女は、いつもいつも突然だ。釣りマンガを読めば釣りに行ったりと、何でもすぐに影響を受ける。それで、周りを振り回す。正直、あまり良いとは言えないけれども、この子はこの子で一生懸命なのだ。今日もまたそうだ。マンガの影響を受けて、学校を休んでまで料理の練習をしている。本当ならば休ませてはいけないのだけれども、理由を聞いたら喉からその言葉が出て来なかった。そう、だって…
「あっちぃっ!」
「ほらほら、大丈夫ですか。」
予め用意していた氷袋を指に当てた。ナギは、何かを訴えかけるようにマリアを見た。
「何ですか。もう止めますか?」
「そんなことはない。絶対にハヤテに、美味しい料理を作ってみせるから。マリアは手出しは無用だぞ。」
…これだから。
だから今日は休むのを許可し、ハヤテを先に学校へ行かせた。
マリアは「はいはい。」とだけ返し、後ろから、親鳥が我が子が飛ぶのを見守るようにその背中を見つめる。
今ごろハヤテは、まだ学校にいるだろう。そして、主が自分のためにこんなことをしているなんて知らない。
「できたーー!」
…
…
…
…
…マリア味見中
…
…
…
…
「………」
「あの〜、マ、マリア?」
「…つ、作り直しですかね。」
作り上げた時の喜びと興奮が急転直下にローになる。
期待に輝かせていたその目が暗くなり、がっくりと肩を落とした。
「ハァー」
そして、溜め息。
料理って難しい。
そのことを痛感せざる得なかった。
「まあ、でも、見た目は悪いわけではないんですから、練習したら作れるようになりますよ。」
「うん…」
目を伏せたままでナギが答える。出来上がった料理が余程自信があったのだろう、だからこそショックが大きかった。
上手く出来ない自分に自己嫌悪になる。
自分はただ、手料理を食べさせて、あの人の笑顔が見たいだけなのに…
全然……出来ない。
「んっ、んっ、グス…グスっ、」
駄目だ。だんだん悲しくなってきた。
出来ない自分の不概なさが、思い通りにいかないこの状況が、ナギの心を締めつける。
「ほらほら、しっかりして下さい。ハヤテ君に食べて貰いたんでしょっ。」
「……うん。」
泣きそうになっているナギは、だけど、しっかりうなずいた。
まだ、諦めてはいない。
想い浮かぶのは、ハヤテの笑顔。
ハヤテはいつも優しい。いつも自分を助けてくれる。最初に料理をした時だってそうだ。あの時も自分の作った料理を全部食べてくれた。とても食べられたものではないのに。でも、だからこそ、自分の料理を食べて欲しい。今度は本当に、美味しいと言わせたい。
涙を拭い、もう一度挑戦することにした。
自分はまだ諦めてはいけない。大切なあの人に食べて貰って、笑顔になって欲しいから。だから、自分はまだ…諦めない!
それから三時間、三千院家では何度何度も叫び声が上がることになった。
ハヤテが帰宅したころには、ナギの手はばんそうこだらけで。
心配するハヤテをよそに、ナギは彼を笑顔で迎えた。
大切な人に想いを込めて。
end