短編4

□救い救われ、幸せなんだ
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一目惚れだったんだ。
私には好きな人がいる。
彼は、学力もよく、強豪運動部の部長さんだ。
顔もかっこいくて、人柄も部長なだけあっていいみたい。
そんな彼はまるで、本の中の主人公みたいでホンキで好きになった。
けど、私のこんな姿じゃきっと嫌われてしまうと思うの。
だってね、他の女の子たちと違って、髪もぼさぼさだし、スカートも長くて化粧もしない。
いわゆる、地味子といわれる女だ。
ほら、だからさ私を馬鹿にする声がするの。
でもね、ダイジョウブなんだ。
こんなのいつものことだから、なれっこなの。
彼の周りにいた男の子たちが言っている。

「おい、あの地味子がこっち見てんだけど、きもちわりー」


「マジかよ、きめぇんだけど。こっち見んなよ」

あっ、ごめんなさい。そんなつもりじゃ…。
そう声を出して、言いたかった。
けれど、言葉は口から発されることはなかった。
なぜなら、彼がこちらを見ていたからである。
見られてしまった!
彼にも気持ち悪いって思われてしまったのかもしれない。
嫌だ、嫌われたくないよ。

「君は…」

けど、彼の反応は私が想像していたものと違っていた。

「どうかしたかよ、赤司」


「いや。なんでもないよ」

そう周りの子たちに言ってから、私の傍に来て話しかけてくる。

「この間、『書斎室』を読んでいなかったか?」

俺も好きなんだよ、一緒だな。
びっくりした。彼もあの本を読んでいたんだ。
だって、あの本の作者はかなりマイナーで読者が少ないから。
一緒と言ってくれた、彼の言葉、笑顔に私は幸せになった。


それから、何日かたった日のこと。
私は見てしまったんだ。
彼が、一人で目を腫らして泣いているところを。
そのとき思ったんだ。私はなんて無力なんだろうね。
彼は私を助けてくれたというのに。
私は、辛く泣いているキミを助け出せずに、見ていることしかできないなんて…。
いや!思い出すんだ、彼はあの時、私になんて言った?
ほら、自信をもって、彼は救いにいこう!
-「これから、同じ本が好きな同士よろしく頼む」-





「赤、司くん…!」


「…なんだ、一人にしてくれないか」


「あ、の!これ、おススメの本なの。読んで!」

そう本を押し付けて、その場から逃げた。
無理矢理押し付けるなんて、おこがましいけれど、今の彼に読んでほしかった。
たとえ、その本を捨てられたとしても、私が嫌われたとしても。



次の日、私はおそるおそる学校へ、教室に入った。
赤司くんはもうすでに学校へ来ていた。
私は、赤司くんの反応が怖くて俯いて席までむかった。

「 ありがとう 」

けど、俯いて歩いている私の傍で声が聞こえた。
その声は、昨日と違ってすっきりとしている感じだった。

「赤司、くん」

驚いて、顔をあげると、赤司くんは微笑んでいた。
その顔は、前に見た笑顔より、まるで憑き物が落ちたようにキレイだったんだ。
「ありがとう」とお礼を言われて、嬉しくなった。
こんな私でも、赤司くんを助けることができたんだ。

「君のおかげで俺は救われたよ」


「わ、私だって、前に赤司くんに、救われたから」

それに、私は赤司くんの辛い顔を見たくなかったから。


「もし君に救われていなかったら、俺はあの本の話みたいに潰れていたのかな」


「でも、赤司くんなら私がいなくても、他の人が助けてくれたと思う…」


「いや、俺は君が、君だからこそ。こんなにも清々しい気持ちになれたんだ」

ありがとう。
また、お礼を言われた。
赤司くんは、やっぱりすごいと思う。
だって、こんなにも私を幸せな気持ちにさせてくれるんだ!

「赤司くん、あのね――」










(後日、赤司くんの隣には私がいて、私の隣には赤司くんがいるようになった)


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