紅血鬼宮
□第五話/もうひとりの
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廊下では、自我を持たない血を求めるだけの、ただの化け物になり果ててしまった生徒や先生達が、ゆらゆらとうろついていた。
「あーあ」
と、そこに男がひとり。
背は高い。180センチのスラリとした体躯。年は若め、二十代前半か後半か。
ゆらゆらと徘徊する吸血鬼を全く気にしないように
廊下をスタスタと歩いていた。
「どいつもこいつも不完全な奴ばかり」
フード付きの黒いローブを身に纏い、全身黒ずくめの、いかにも怪しい服装だった。
「ぎゃハは!!」
急に、歩いていた男に、ひとりの吸血鬼が襲ってきた。
「頭まで馬鹿らしいね」
見た目は低くない爽やかな声で喋る好青年。
「相手をわきまえなさい」
男は足で軽く吸血鬼を蹴った、と思った瞬間、
「ぐがッ!!!」
吸血鬼は飛ばされ、壁に当たり、口から血を流し倒れた。
吸血鬼がぶつかった壁はへこみ、ひびが入っていた。
「敵が何者かもわからないとは…馬鹿過ぎる」
男は何もなかったように歩き始めた。
「本体は何をしている?まさかまだ自我を…?」
そして、ニヤッと笑い、言った。
「哀れな」
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