▼タイトル未定

□□one
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心臓を貫かれ血を吐き、ゆっくりと倒れていくように見えたその視界であの人は泣いていた。


「カルナ!」


ああ、その涙は私の為に。
私の体を腕で支え、私を思い哀しむエメラルドの瞳には淡く微笑む私が映り、その瞳に溜められた滴が映る私の姿を揺らしていく。


「嘘だろカルナ!どうして俺の剣を避けなかった…」

「やだなぁジーク…、私が、わざと当たったみたいに…言う、な、よ?」


だって私が、私が避けてしまえば、貴方が死ぬことになってしまうから。


「でもジーク、これで貴方も王に認められたのであろう?」

「っ!!馬鹿野郎!確かに俺は、お前を殺せば貴族にしてやると言われた!だけどお前が、俺に負けるなんてあるはずがないんだ!!なあそうだろカルナ!」


ジークは私に刺さった剣を勢いよく抜き取り床に捨て置いた、そのままきつく私を抱き寄せる。


「ジー、ク?なぜ私を抱き寄せる。私が女にでも見えるか?」

「ああ、見た目は女に近しいさ。けどよ、俺はお前だからこうしてる、わかるかカルナ?」

「…いや、ジークが馬鹿なことは知っているけれど、私は理解を出来なかったよ。ジーク、離せ。」


じきに私の死体を拝みに王族が来る、ジークが私を抱いていたら王族にジークを殺す動機を与えてしまうだけだ。


「離れろ、ジーク。私はカルナ・セイバーンだ、王家の血を引く私がそう簡単に死にはしないよ」


それらしい理由を述べてもジークの瞳は揺れていた。当然だ、その王家に、王に殺害を命じられて彼は来たのだから。
孤児だった彼と王族で異端な私は親友だ。暗い陰謀と闇に塗れながらも私は対極にいたジークと知り合い引かれた。

ジークは私の我儘に付き合わされただけであろう、だからジークだけは絶対に救いたい。


「カルナ?どうして笑っている?」

「離れろジーク。」


突き飛ばされたジークは尻餅をついて私を見る、支えを失った私は仰向けに倒れ込んだ

荒々しい足音が近づいて来るのを感じて私はそっと瞼を閉じる。
私はジークを救いたい、ただそれだけだ。


「ジーフェニア・クロウ!!カルナに扮した魔物を倒したか!!」

「っ、マリウス、…様。」


ジークが呼んだマリウスと言うのは私の兄だ、と言っても血の繋がらない、関係も薄い人物だった。
私を葬ることで地位をあげたいらしい。欲深いかわりに頭はよろしくないマリウス・セイバーンは、私の傍まで寄ると落ちているジークの剣を手に取り、傷のある左胸へ勢いよく突き刺した。


「ガバ…―ッま、りうす!マリ、ウス。お前の、思惑ど、りに…いく、わけ、が…ない!」


気を張りマリウスを見つめる、喉を引き攣らせたマリウスは一瞬淀んだように私を見たがすぐに勝ち誇ったような笑みを浮かべた。


「いいや、私はお前を殺して王に見初められてみせる!!化け物の息子を殺した!王族は安泰だ!いくぞジーフェニア・クロウ!!」

「カルナ…!ま、待ってくださいマリウス様ッ!カルナは、カルナは本物ですよっ!」


悲痛に叫ぶジークの声など聞こえていないのかケラケラと笑うマリウスはジークを掴みこの場を去っていった、しばらくすると出口から炎が伸びて来て、建物ごと私を殺すのだと理解する。


「なあ、ジーク。あなたの幸せに、私の生があるのならば私は生き抜いてみせるよ。」


瞳を閉じて、もう一度開いたその目はオーロラに揺らめいていた。


 
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