太陽ノ教団

□洗礼の話
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xxx年。
とある貴族の邸宅にて、一家、使用人を含む大量殺人という凄惨な事件があった。

「酷いやり口だ。
一家どころか、使用人まで巻き込んでやがる。
そういや一人、庭師の男が見つかってねぇみたいだな。」

「庭師?庭師ですか。まぁ、今回は誰であろうと容疑者になれそうですけど。
恨み…っていいますか。
ほら、前からこの家の伯爵夫人にいい噂はありませんでしたから…

結婚した数は数知れず。
常に男をとっかえひっかえ、金遣いの荒さも他の追随を許さない。
いわゆるロクデナシって奴で…」

「…オイ」

「何です?」

疑問を浮かべる仲間に、男は黙ってその理由を目線で示す。

邸宅の前、
会話をする二人の男の視線の先には

育ちの良さそうな身なりをした
金髪褐色の肌をした少年が立っていた。

彼の名はラドゥ。
外出をしていた為に難を逃れた生存者だった。

「あっちゃー…聞かれちゃいましたかね」
男の一人がまずそうな顔を浮かべた
「あちゃーじゃないぞ、この馬鹿。
…俺がなだめてくる。」
もう一人の男は少年の前まで来ると、
屈んで目線をあわせる

「…坊主、そんな所に立っていても辛いだろう。今は休んでた方がいい」
男はそう言って頭を撫でようとするが
少年の真剣な眼差しを向けられ
その手が止まった

「教えて下さい。
母様は…沢山の人から恨みを買っていたのですか」

「あぁ、坊主…その話は…全くお前の母さんとは関係の無い話だ」

「…本当ですか?」

「あぁ、本当だとも。」
男の言葉に、
少年は心底ほっとした表情を浮かべた。

「…良かった」

男は驚いた。

突如として
全てを失ったのだ

本来なら泣き崩れるか

ただ、茫然自失となるしかないと言うのに

その少年は、
母の事を思い、真剣に尋ね。
その潔白を信じきっている。
現実にはそんなことは無いのだが…
それでも母としての愛が彼に伝わっている事を思わせた。
「…それにしても、坊主は偉いな。涙一つ見せないなんてな」

そう言って、男は少年を見る
彼は涙を見せていない。
けれども堪えた涙が瞳を潤していた

「…強くあれ、と言われてましたから…」

「そうか、そうか…


男は今度こそ、頭を撫でる

「坊主は強くて、いい子だな。
多分、それを知ってる神様が
坊主を守ってくれたのさ。」

「神様が…」

「おうよ。多分これからもずっとな。

だから、今後辛い事があったとしても…坊主なら大丈夫だ。
やっていけるさ。」
男は無骨な手で少年の頭を撫でながら
ただ、気安めにしかすぎないであろう励ましを送った

「…ありがとうございます…」
だが
その気安め程度の励ましは
全てを失った少年の心に深く届いていた。


…程なくして、
少年は、近頃出来た教団が運営する孤児院…太陽の家へと引き取られた。


彼はその孤児院で
亡き母の教えを忘れる事なく、教育を受け

信心深く、心優しい立派な青年へと成長した。
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