伽話

□とろける怨嗟は蜘蛛印
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〜男の襲撃からしばらく後の事〜

「いい加減にせよ若造。
さすがの妾も堪忍袋の緒が炸裂して弾けてまざってとろけるぞ!!」

舞台は相も変わらず妖の住まう荘園の庭。

蜘蛛の妖は苛立ちながらに自らに突き立てられた刀を掴むと抜き捨てた

「ぬぅ…やりおるな妖怪小豆洗い…!!」

一方の人間はというと、傍らに小豆を洗う為の備品をスタンバイした状態で妖と対峙していた。

小豆を洗わねば死に至る呪いをかけられた彼が、妖怪と戦う為に知恵を振り絞った結果がこれである。

「ぐぬぬ…小豆洗いじゃないと何度言えばわかるかっ!!」
妖は苛立ちの表情を露わにする。
仇討ちの件からというもの、男は何度も懲りずに妖の元へと訪れるようになった。
それも、人違い…いや、妖怪違いで。
「ならば証拠を見せてみろ…!」
「見、れ、ば、わかるだろう…!!!
あぁもう疎ましいっ
こんな思いをしたのは忌まわしき源の奴以来じゃ…
おい若造」

妖は小豆をとぐ男に問う
「何だ…」
反抗的に睨む男。

「そのシャキシャキやかましい呪いを解く手伝いをしてやる…
解いたら二度と来るでないぞ!」
「好きで洗ってる訳ではない!!
ぬ…離せ!!どこへ連れて行くつもりだ小豆洗いっ」
「本物の小豆洗いの元よ!探し出して解呪させてくれるわ」

かくして一人と一匹の奇妙な小豆洗い探しの旅が始まった。

小蜘蛛が彼方此方を根回しに探し
男は小豆をとぎ
妖が聞き回った結果…ついに……


「ようやっと見つけたぞ…」

一行は小川にたどり着いた。

「…長き旅だった」

「お前は小豆をといでいただけであろう。
しかしながらに…見よ」
妖は小川の小さな影を指す。
「む?」
「その節穴にも劣る目をかっぽじって良ぉく見よ。
あれが本物の小豆洗いぞ」

小川の清流のほとりに「それ」は居た。

小柄な老人を思わせるそれは、傍らで釣りをしている人間を気にすることなく、
見るものを穏和にさせる朗らかな面持ちで、

シャキシャキと音を立てて小豆を洗っていた。

「全く…呪いをかけるタマには見えぬがな。

そら、行ったらどうだ?あれは話せばわかる手合いであろう…」

「…う、うむ。」
さくさくと川草を踏みしめ、男は小豆洗いの元へと歩みよる。
「すまぬが」

「……」
男が声をかけるも、小豆洗いは穏やかな表情を変えることなく小豆を洗う
「貴殿のかけた呪いを解いていただきたく馳せ参じた」

「……」

「もし。
聞こえているだろうか…」

「………」

しかし小豆洗いは答えない。ただシャキシャキと音をたてるだけ。

「何か妙じゃの」
端から見ていた妖は、変わらず音をたてる小豆洗いを見る。
小豆洗いは変わらず、シャキシャキと小気味良い音をたて続ける。
手も動かさずに。
「まさか…」
嫌な予感が浮かび、妖は小豆洗いの元へと近付く。
そして…
「な、何をするのだ妖よ!!」
小豆洗いを持ち上げた

「やはりな。おい若造…してやられたな。
これは張りぼてよ!!」
「何…だと!!??」

妖が持ち上げた後も小豆洗いはシャキシャキと音をたてる。
小豆を手にしてもいないというのにだ。
「馬鹿な…誰が、何の為に!」
「そんなこと妾が知った事か!」
二人がぎゃいぎゃいと言い争っていると
先程まで傍らで釣りをしていた釣り人が怪訝そうに二人に話しかけた。

「あの〜、お宅らウチに何か用?」

「いや、貴殿に用はないのだ。我々は小豆洗いに用があってだな…」

「小豆洗いって俺なんだけど」

「いや、だからだな…妾達は…
へ?今?なんと?」

釣り人は
面倒臭そうに頭をかきながら答えた

「だーから、
小豆洗いは俺なんだってば。
俺が小豆洗いさん。」


…その時の二人の衝撃と落胆といったら無いだろう…。
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