捻れた本

□一人目ノ花嫁
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時は三百と十年程昔の事だ。

今は廃虚となった建物の中に、彼女は居た。

ゆるやかなウェーブのかかったブロンドの髪。
意志の強さを秘めた青い瞳。
凛とした顔立ち。

荒涼としたそこに立つのは不似合いな程、彼女は美しかった。

女は廃虚に横たわっていた死体に、祈りを捧げると
長剣を抜いた。

「何処にいる、吸血鬼!」
確認した所、今回教団から依頼された通り、死体には血を吸われた跡が残っていた。
彼女は剣を構え、辺りを見渡す。

そんな時、
闇の中から声が響く。

「これはこれは…
勇ましいお嬢さんではないか。」

「何処だっ!?」

雲間の切れ間から溢れた月明かりが、部屋に大きな影を映し出す。
彼女がその影に目を奪われた時、
「こちらだよ」
と、背後より声がかけられた。

「!!」

すかさず、女は振り向き身構える

「今晩和、お嬢さん。
このような場所に、君の様な御婦人が来るは珍しい…」

吸血鬼は貴婦人に対し、恭しく御辞儀をする。

「…その言葉、貴方にそっくり返してあげるわ。坊や?」

女の眼前に姿を現した吸血鬼は子供の姿をしていた。
まだあどけなさが残る外見だったが、
長い銀の髪に赤い瞳が、彼を魔性のものであると証明していた。

「坊や…か。
君よりは長く生きていると思うのだがね」
吸血鬼は不服そうな面持ちで腕を組む。

「そんな事はどうだっていいわ。
私が知りたいのは年齢なんかじゃない。
この惨状があなたの仕業かどうか、よ」

女の言葉に、吸血鬼はやや考えてから答えた。

「…違う、と言ったら君は信じるのか?」

「まさかっ!!」

女の剣が吸血鬼の体目掛けて振り下ろされた。
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