夜の本

□明石と妖
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降り注いだその化け物達はまず明石の手や足にまとわりつき自由を奪った。

次に、気を抜いてだらしなく気崩していた襯衣(シャツ)の下へ一匹が潜り込み始める。

ぬめりを帯びた体が明石の皮膚を這う度、不快感に、ぞくりと体が震えた。

「く…ぅ…」


全身をぬるついた体でまさぐっている。

「そろそろ…離してもら…えないかな…っ」
不快感に眉をひそめながらも、化け物を引き剥がそうとする。
しかし滑って思うように押せやしない。

「くそ…冗談じゃない…何で私がこんな目に」

厄日だ。
その一言でこの常軌を逸した出来事を片付けられるのか明石は思案した。

或いは悪夢と呼べば良いのか…今は考え事をしている場合ではないと言うのに現状から目を背けたくて仕方がない。
ぬるついたそれを掴んでは滑り、掴んでは滑る。

質感はうなぎの…それも油を足したかのような。

うまく掴めれば僅かながらに後退させれるが、それは再び体を這って来るものだからどうしようも無い。
再び肌を舐めるように這われぞくりと震えた。

かろうじて声はこらえたが、これではただ単に往復させているだけだ。
それも自らの手で化け物の体を掴んで体を愛撫するかのよう…嗚呼、なんと淫らなのだろう。

危機的状況にも関わらず、そんな考えがよぎり苦笑した。
笑っている場合ではないが、ぬちゃりと化け物も音をたて嘲笑っているようではないか。

滑る体は明石の衣服を捲り上げる。
それらのぬるついた体液は釦(ボタン)を滑らせ衣服へと入り込む度につるり、つるり、と釦で留められた襯衣を解放していった。

もはや何も言えない。明らかにまずいことになった。
露わになった上半身を化け物共は蹂躙する。

もう一匹が脇腹から這い上がり、胸元の微かな溝から首筋へねっとりと前進し、鎖骨をなぞる。
「…ぁ…ッ」

何なのだこれは、吐息が零れてしまう。
大きな舌に舐め上げられたかの如き感覚に明石は体を震わせた。

口を抑えたくとも腕はすっかり粘ついた化け物に頭の上で拘束されており、忌々しく思いながらも唇を噛み締める。

厭だ、こんな化け物相手に感じるなど。変態ではないか。


頑なに唇を結ぶ明石を嘲笑うかのように化け物は鎖骨を伝い頬を撫で上がり、耳全体を舐めあげた。
ぴちゃりと耳元に響く水音。
「……ッ!!!」
今更ながらに赤面する。
目を見開き、思わず強く噛んでしまった唇に血が滲む。思わず痛みに歯を食い縛る力が弱まる。
それを化け物は見逃さなかった。

「なっ…やめ‥っ…ぅ…ん!!」
ぬるついた化け物はあろう事か口内へと入り込み始めた。身の毛もよだつ不快感に身震いする。

「んぅ……っ…ぐっ」奇妙な味わいに思わず逃れようとする明石の舌を、化け物は追いかけ絡みつく。

口の中で別の生物が交わるように、舌と化け物の体が絡み合う。

「…んんっ」

耐えきれず目を閉じた。
自棄になって噛み切れないかとも思ったが、上半身を這い回る化け物達のせいで顎に力が入らない。
ぞろりと、舌を舐めあげられ体が快感に震えてしまう。


明石が口内に気を取られている中、上半身を這う化け物はある部分に興味を示した。

元来怠け癖があり、肉体労働とはほぼ遠い日々を送ってきたせいか、明石の体は男と呼ぶにはやや華奢な方だ。

しなやかな体の胸の先。
不健康的で色素の薄い肌ゆえに、体を流れる血の色が隠せずに…
桜に鮮やかな朱をほんのりと混ぜたような乳首が。

先程から上を這い回る化け物の粘液にまみれて濡れて光沢を放つ。

服を脱がされ感じる肌寒さにじっとりと濡れた二つの果実が主張している。

洋菓子を飾る赤い桜桃のように、シロップにまみれた姿で早く食べてと化け物を誘う。本人の意思は無しに、だ。
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