夜の本

□異端審問官と蜘蛛
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「ようこそ、まあそんな緊張しなくていいぜ」

薄暗い一室。

リッシュと名乗る男が一人、連れてこられたシェイドを出迎えた。

「(まずいことになったな…)」

シェイドは無言で辺りを見渡す。

入り口は一つのみ。
室内には異端審問におあつらえ向きなオブジェが所々に置かれている。
彼等が求める"正直な答え"を返さない限り、
好きなだけ使い心地を体験出来るのだろう…

「(悪趣味だな。
…しかし、どうしたものか…)」
実際の所、彼は人間では無かった。
しかし、人で無いと言うことをばらす訳には行かない。
もしも、正体が蜘蛛の吸血鬼であるとばれてしまったら…
雇用者のカンダタの立場が危うくなる。
そしてカンダタに何かあった場合…
真の主であるカーミラの、病を治せる人間が居なくなってしまうのだ…

「なぁ、おい、聞いてるか?」
呼びかける声が、
他事を考えていたシェイドの意識を引き戻す。

「正直になりゃ楽なもんだぜ。
ま、宜しく」
リッシュは異端審問にしては珍しく気さくな笑みを浮かべ、手を差し出す。
「正直も何も…
私は人間だ。」

シェイドは手を差し出そうとはしなかった。

しかし、シェイドを連れて来た髪で片目が隠れた男にその手を捕まれる。
「…人ならば、しっかりと挨拶を返すべきだろう?」
そう言って指の間に何の変哲も無い金属の棒を挟む。
「そう言うこった。
まずはご挨拶」
「………ッ!!!!!」
棒を挟まれた指に激痛が走った。
それは一瞬に過ぎなかったが、手を離された後、そこには何の痣も残りはしない。

「これは鉛筆とかでも真似が出来るが…よい子の皆は真似しないようにな!」
「おいナイン、どこに向かって話してんだ?
そんな事よりシックス連れて来いや。
アイツまだ前の奴をいたぶってるだろうからよ」

「解った」

ギィ…と軋む音を響かせ、重い扉を開くと、ナインは出て行った。
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