太陽ノ教団

□教団ノ庭園デ
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一面に咲き誇る白い花。

真っ白な花畑に、座り込むのは同じように真っ白な…長い長い髪をもつ少女。

少女の唇からは、優しい歌声が紡ぎ出される。

「♪」

少女は歌いながら
白い花冠を編み上げていく。

彼女の周りには白い鳥達が集まり、歌声に耳を済ませているかの様。


やがて彼女は花冠を作り上げ、歌を終わらせた。

出来上がった冠を高らかに掲げると、満足気に微笑んだ。
しかし…その表情はすぐに曇る。
「…今日は来ないな…
どうしたんだろう。
…フラウ」

少女は花冠を捧げたい相手の名を心配そうに告げた。

「おなかいたいのかな…。それともお熱かなぁ。
ねぇ、どう思う?」
少女は周りに集まっていた鳥達へと尋ねた。

しかし鳥達は突然、
誰かの来る気配に驚き飛び立っていってしまった。

鳥の変わりに答えた声は…

「こんな所にいたのですか。
探しましたよ、聖女様…」
「あっ、フ…司教さま!!」

聖女と呼ばれた少女
シルクは声のする方を振り返った。

そこに立っていたのは
教団の司教、ゴルドベルクと
その後ろに控える、黒衣の男、ルナール。

「聖女様、次の巡礼先が決まったばかりですよ?
このような汚れやすい場所で何をしているのです。

身支度を整えなくては」

「何をって…花冠を作ってたんだ。
えへへ、凄い?」

聖女は立ち上がると、作ったばかりの冠を見せて得意気に微笑んだ。

「花冠…ですか。」

大して興味を持たぬ司教の元へ
聖女はやって来る…
そして、作った白い花の冠を掲げると言った。

「これ、司教さまに上げる!」

「………」

司教の脳裏に

かつて

妹と弟のように思っていた二人と過ごしていた日々が蘇る。

色とりどりの花を編み、色鮮やかな冠を作ったシェリル。

「これ、ゴルドにあげる!」
彼女はそう言って、
はにかみながら微笑んだ。

その時の仕草と言葉が今、
彼に向かい花冠を掲げる少女に重なった…。

「…」

「司教さま、どうしたの?」

「あぁ、いえ…何でもありませんよ。

有難う御座います、聖女様。」

微笑みながら司教は礼を言う

彼からのお礼の言葉が嬉しくて少女は喜ぶが…

「しかし、これは貴女にこそ相応しい。」

受け取ってもらえた筈の花冠は
その手によって、
作り手の頭上に、優しく返されたのだった…

「あ…」

「良く似合っています。
ですが、花冠をつける習わしは聖地から戻る際ですから…くれぐれも巡礼の際に付けていってはなりませんよ。
それに、言葉遣いにも気を付けて下さい。
貴女は教団の象徴たる聖女である事を常に念頭におかれますよう…」

「……はい」
少女は自分の頭上に被せられた花冠を両手でぎゅっと握り締めた…

「では、聖女様。
後程大広間に来て下さい。
私は先に向かわせて戴きます」

少女はこくりと頷いた。
司教は後ろで一つに束ねた髪を風に揺らしながら
大広間へと向かう。

傍らに居た黒衣の男も聖女に一礼をすると行ってしまった。

座り込んだまま
少女は寂しく笑って
自らの頭上に乗せられた花冠を下ろした…。






廊下を歩きながら、
歩いていく司教の後ろ姿を黒衣の男は見ていた。
そして尋ねる

「何故受け取らなかったのですか」

それは心の内に秘めておくべきだったかもしれない。

だが、彼も…かつての司教を知る者として
聖女が旧友に重なって見えていた。

勿論実際に、シェリルの子孫を司教が探しあてたのだから
似ていても無理はないのだが…。

「……」

司教は立ち止まり、
振り返ると言った…

「あれは私には…、
相応しくありませんよ。」
その声色は、…どこか寂しさをたたえていた。

「…そうですか。」
「さあ、行きますよ。
先に行って準備をしなくては…
貴方は天使を小屋から出すように伝えておきなさい。
そろそろ反省し終えている頃でしょうからね…」
「…は」

男は一礼をすると、庭園を抜ける出口へと向かった。
そして一度だけ、司教を振り返る。

その時風が吹いた。

はらはらと散った白い花弁が風に乗り

舞って行った


まるで司教の元で、
白い羽根が舞い散っていくようだ…
そうルナールは思った。

そして
あの風に舞い散っていった花は

昔の…
離れ離れになって
もうくっつけはしない、自分達のようだとも…



end

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