太陽ノ教団

□聖女ノ祈リ
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〜彼女は信じていた

世界は清く
美しいものであると…〜


閑静な町に
歓声が沸き立った。

各地に祈りを捧げる為、教団の聖女がその地に訪れたからである。

人々は道を囲み、
ある者は窓から、
喜びと祝福の声を聖女へと向けた

「おぉ、聖女様!聖女様だ!!」

「あぁ、何て真剣な面持ちなのでしょう…!」

聖女である少女は一言も喋らない。

その身体より長い髪を持つ乙女達と
周りを警護する騎士達と共に、今回の目的地であるこの町の礼拝堂へと
おごそかに進むのみ…

「ねぇママ見て!
天使様もいるよ!!」
窓よりその様子を伺っていた子供が母親へと呼びかける

聖女と同じように、教団の象徴とされる天使が
空を優雅に飛んでいた。
天使もまた、聖女と同じように 一言も喋らず
一行の向かう先へと飛んでゆく。

護衛騎士達の甲冑の金属音が響く中
聖女は真剣な面持ちのまま
その昔、司教に言われた事を思い出していた……


『良いですか二人共。
巡礼の際は、道中にお喋りをしてはいけませんよ』

聖女と天使に向かい、
司教は柔らかい口調でそう言う。

「どうして?」
子供のように彼女が尋ねると
司教は答えた。

『悪魔に付け入る隙を与えてしまうからです』と…


聖女がその事を思い出していたその時…

「この嘘つきめ!!!」
突如として、罵声と石が、投げられた。

「…っ!?」

その石は聖女一行に当たる事もかなわなかったが
少女一人を怯えさせるには充分だった。

「何が聖女だ、何が天使だ!何が神だ!!!
俺は騙されないぞ。騙されるものか!!

この…嘘つき共め!!」

聖女を見送る人々の列から身を乗り出し
一行の前に躍り出た男は叫ぶ。


聖女の前に、一人の護衛騎士が進み出た。
彼女に、その男が見えないように…
「おいっ、お前達もいつまで騙されているんだ!?
目を覚ませ!!!

神の奇跡なんて嘘っぱちなんだ!!

いいか…こんなものは……ぐッ!!!!」

男が投げたように、
彼に石の礫が投げられた

騎士達が剣を下すまでもない

男は民衆に引きずられ
周りを囲まれ口々に罵られた。

「この罰当たりが!!」
「嘘つきは貴様だろう!!」


その中
騎士は聖女を振り返り、告げた

「聖女様参りましょう。
道が開けました」

騎士は再び元の隊列へと戻る。

「…あの人…泣いてたよ…」

禁を破り、震える声で、聖女は見たものをそのまま伝える。

横を歩く騎士は
「彼には悪魔が宿ったのです」
と一言だけそう告げ、
それ以降何も喋らなかった。

ただ聖女には
涙と共に叫ぶ男よりも、
彼に向けられた民の瞳が
何よりも恐ろしく見えたのだった。


祈りを捧げる間も
それが消える事は無く…


彼女は信じていた

世界は清らかであると。

信じていた


信じていたのに……





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