捻れた本

□鏡よ鏡
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それはずっと昔の話。
ヴラドの父が所有する城に
継母と、一人の女中と、ヴラドは一夏の間、滞在する事となっていた…。
これはそんな舞台で起きたお話。



城の一室。
どこからか話し声がする。

部屋に居るのは一人の夫人。
彼女は誰かと話していた。
「鏡よ鏡よ鏡さん。
世界で一番幸せなのはだぁれ?」

「それは私ではない」

返事はすぐに返ってきた。
「そうよね、まだ足りないわよね。
いくらお金持ちと結ばれても、相手は病持ち。
それに、目障りな跡取りがいるのですもの。」

夫人は溜め息をついた。
跡取りとはこの一夏の旅行に連れてきた血の繋がらぬ息子だ。
会話こそすれ、そこに絆は存在しない。
常に女中の傍に居る臆病な子供だ。

「今回だって、仲良くしてあげようとこの城まで来てやったのに解っちゃいない!!

ああ…そうよ、あのガキ…あのメイド…!!
あいつらさえ居なければ、私は今頃こんな他人の期限なんて伺わなくてもいい暮らしなのにっ!!」
女はヒステリックに語気を荒げる
しかし鏡に映る彼女は至極冷静だ。
鏡の中の夫人は、口を動かしこう言った
「落ち着け。
我に良い考えがある。」
「……」

現実の夫人は何も喋っては居ない。
喋っていたのは鏡だったのだ。

夫人は紅のひいた唇を吊り上げ笑うと言った

「あら、それは何かしら。聞かせて頂戴?」

鏡は同じように
笑みを浮かべてこう返した

「その二人をこの城の一室の奥深くへ、閉じ込めてしまえば良い。

そして日を置き戻ると良い。

お主の夫は企みに気付けはせぬ。

何せ、自らの子を孕んだ女が言う事なのだからな。しかしそれは夫の幻想。お主の中にいるものはお主の思う人間の子。喜ぶが良い。」

「…嘘。
私が、あの人の…?」

鏡に向かい夫人は尋ねた
「何故そこまでわかるの?」

鏡は答える

「我は鏡。映した者を最も知りうる者。
外側、内側。
全てを我は知っておる」
「へぇ、あなた…凄いのね」

「…」

「決めたわ。
あなたの言った通りにやってみましょう。

あぁ、なんて晴れやかなのかしら!!
あの男が死んでも遺産は私とあの人の子へ!つまり、つまりは私のものよ!
ふふ…そして私はあの人と幸せを手に入れるの!

ああ鏡さん、喋る鏡さん。
私、あなたと話せて良かったわ!!
早速準備をしてしまいましょう!!フフ、アハハ、アハハハハハ!!」

女は部屋を後にした
鏡は部屋に取り残された。
「そうだ、お主はつかの間の幸せを手にするだろう。
しかし我は幸せに非ず。」


ありとあらゆる人の欲望をその身に写し続けてきた
"鏡の姿になったもの"は思う。

人の身になりたいと。
原罪にまみれた人間になりたいと。

恐らくこの城で二人の命がねじ曲げられるだろう。

かつての我のように

その時が
自ら練り続けてきた計画の始まりなのだ……。

鏡はいつか来る日を楽しみに待つ事にした。

日が登り、日が沈み
城に二つの悲しみに満ちた気配を感じていたが

やがてその気配がなくなった時も

鏡はただ
遠い夢に、思いを馳せていた…




The 黒幕。
後にラドゥを産むことになるママン。
でも実の父はロザリーさんなので…
あれ、ラドゥとヴラド血繋がってなくね?

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