捻れた本

□蜘蛛の従者と吸血鬼の主
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久しぶりにカーミラの館へと戻ったシェイド。

彼はカンダタから受け取った薬を主に渡し終え、恭しく彼女の前に跪いた。
そんな従者を前に、
カーミラは言う。

「ありがと。

ところでどうかしら?
近頃の調子は。」

「はい。
問題ありません」

従者は跪いたまま答えた。
近頃あった異端審問官にとっ捕まったなどと言う失態は伏せておく事にする。
何故なら…

「本当に問題ナッシングなのかーい?
僕チャンにからかわれるから黙ってるんじゃなーいの?」

口を挟む道化装束の男、こいつが居るからに他ならない。
「…黙れ道化」
シェイドは跪いたまま、カーミラの傍らでふざける道化、アルレッキーノを睨みつけた。

「あらやだ怖い。

久しぶりに虫けらちゃんに睨まれちった」

「そのふざけた態度のせいだろう…?」
「そんな事道化に言われても困りますぅー(¬з¬)」

二人が暫く言い争っていると

カーミラが煩わしそうに言った。
「アルレッキーノ、少し外して頂戴。」

「ハイハイ。カーミラちゃまの言いつけとあれば仕方ありませんねぇー

そんじゃ、虫けらちゃん、チャオ☆」

道化は投げキッスの動作をした後
炎に包まれ、何がおかしいのか笑いながらその場から姿を消した。

「…やっと静かになったわ。
楽しいけれど、貴方達が揃うと五月蝿いのだもの。
何とかして欲しいわね」
「…申し訳ありません」
「まぁいいわ。
ところでシェイド。
貴方って、私が作ってから百年くらい経ったのよね」

「はい…左様にございます。」

「人なら天寿を全うするくらいね。
…ねぇシェイド」

「はい、何でしょうか」

「今後も私の従者であり続けたいと思うの?」

カーミラは椅子から降りると、跪く従者の前に歩み寄った。

「私の血を飲めば、
あなたは独立出来るのよ。

ねぇ、今、それを許してあげるとしたら…
貴方ならどうする?」
華奢な手首を差し出して、カーミラは少女の姿のままに妖艶な笑みを浮かべる.

彼女の突然の提案に、
シェイドは戸惑った。

カーミラは自分を必要として作ったのだから、
もう不要と見なされたのだろうかと

「カーミラ様、
私は…」

そこからの言葉が浮かんで来ない。
今の生き方以外を知らないからかもしれないが…
どこかぐらつく意志を感じてしまった。
あの人ならば、あるいは…

しかしそれは、従者の身が抱くにはおこがましい程の感情の揺らぎだった.

そんな迷うシェイドをカーミラは暫く見ていたが、やがて言った。

「もう、何を悩んでるの?
即答で断りなさいよ!!
私にはまだ貴方が必要なんだから。」

まさかのツンデレ発言である

「…!
は…はい…。
試しておられたのですか…」


シェイドは見事に悩んでしまい、
しまった…と表情を浮かべた。

「勿論試したに決まってるでしょ?
そんな寛大に許す訳ないじゃない。私は雑巾の水すらカラッカラになるまで絞るのをやめない吸血鬼なのよ!雑巾なんて扱わないけれど。

でも…
そうね…もし、本気で血をあげるとしたら…」

カーミラは暫く間を空けて言った。

「私が死ぬ間際かしらね。」

「そんな、縁起でもありません…」

「クスクス、冗談よ。でもいずれ訪れるかもしれない未来ね。

そして、血をあげるんだったらもう一つ条件があるわ。
貴方がある感情を知ったら…よ。」

「ある感情…ですか。
それは一体…?」

シェイドの問いに
カーミラは少女らしからぬ、妖しい笑みを再び浮かべて言った。

「愛」と。


「私がローラを思うように、
貴方も誰かにそんな感情を持ったとしたら
下克上だろうが謀反だろうが許したげるわ。

寛大でしょ?」

「…はい、しかしそのような大それたことは決して」

「クスクス、相変わらず表情が堅いわね。

多分いつの日か来るわよ、そんな日が。

だって貴方は私の血を分け与えた従者だもの」


愛に溺れる日が

いつか来るわ…


必ず

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