捻れた本

□学者ト肉塊
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暗い暗い地下の奥深く…
脈打つ鼓動の音がする…

〜学者ト肉塊〜


陰鬱な地下室には、
地上からは聞こえないだけで
様々な種類の音が存在する。

紙をめくる音。
筆を走らす音。
虫の羽音。
水滴が滴る音。

音、音、音…

地下室で一人、研究に没頭する学者…レンフィールドは日頃からこのような音に囲まれて過ごしている。
「拒絶反応有り…と。」レンフィールドはそう呟き、それと同義の言葉を手帳に書き記す。

手術台に横たえられた骨格は薄く肉付いているが、既に息絶えた後の(元より死んでいた…)ようだった。

さも平然と学者は骨格の一部に差し込んだ端子と、それに繋がる管を引き抜く。
「やれやれ、ご主人様の期待に応えられるのは
何百年先になるのやら…」
彼の口から計り知れない単位が零れるが、それはあながち冗談では無い。
学者は既に人間をやめていた。
彼を吸血鬼にした主に応えるべく
そして、彼本来の目的の生涯をかけた知識の探求に
彼は永い時を地下で過ごしていた。

「さぁて、少し休憩としますかねぇ…」
骨格に嫌なシミのついた布を被せると
彼は用意していた食事を取りに自室へと向かう事にした。
「あぁ、いたいた。
こんな所に逃げて…」


彼がケースの中を飛び回る生きた"食事"を掴まえたその時…

ドン

ドン


と、地下から
重い扉を叩く音が聞こえてきた…。

「…ふむ」
学者はもがく食事をくわえると
音の響いてきた更なる地下へと足を運ぶ

ドン


ドン


ド ン!


重い扉を開き、奥へ奥へと進む度に音は大きくなっていく…

ついに学者は最奥の鉄で出来た頑丈な大戸の前へたどり着いた

そこは彼の主であり、城主であるヴラドですら
入った事がない一室だった。
…地下自体、暗所への恐怖が強い主は好んで入らない為
この地下と、更なる奥の間を知っているのはレンフィールドのみと言ってもいいだろう。
城の地下に存在した拷問部屋に地下牢、まして
厳重に閉ざされた大きな扉など……

「…どうしました?」

鉄扉の前に立ち、レンフィールドは慣れた反応を返す

声をかけられ、
扉を叩く音がピタリと止んだ。

学者は巨大な閂(カンヌキ)を外す。

ギギギ…と軋んだ音を立て
鉄扉が開く。

薄暗い一室に
巨大な繭のような肉塊があった。
脈打つそれに
動じる事なく、半ば愛おしそうに学者は近付いて行く…

薄く透き通った繭が
若干盛り上がった

「おや…」

肉塊は盛り上がった場所から、ずるりと不完全に形成した腕を出し

その手に握った何かを学者の前へと差し出した

「あぁ。もう食べ終えたんですねぇ…」

カラン、ビシャ

何かの粘液にまみれた白骨が
床に散らばった

手はズルズルと中へ引き戻されていく。

「あぁ…消化が終わりましたか…では、またお腹が減ってしまうでしょうから、新しいのを用意致しますね。

フフ、私の方も近頃物足りなかったですし…
また仲良く半分ずつといきましょう…♪」

こちらは新しい素体に…と呟きながら白骨を拾い集めると
レンフィールドは肉塊に向けて微笑んだ。

繭は再び不完全な腕を形成すると
学者に向け人間がやるバイバイ、の真似をしてみせた……






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