捻れた本

□かつての鏡
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それは一人の人間のお話。
その人間は生きる事に深く深く絶望していました。
彼は人間が嫌いで
人間である自分も大嫌いでした。
たくさん辛い目に逢い。
たくさん酷い事をしました。

そんな悲しい悲しい出来事が彼の心を壊してしまったのです。

けれどもそれは案外どこにでもあるお話。

・・・

それは一人の人間のお話。
その人間の前に真っ黒な影が姿を表し言いました。
そんなに人間が嫌ならば、人間じゃなくしてあげようか。

彼はすぐさま頷きました。
そして彼は最期まで大事に持っていた物に魂を封じ込められました。

皮肉にもそれは人の姿を映し出す手鏡だったのですが
彼はそんな事すら次第に忘れ、
いつしか自分の事もした事もされた事も忘れていきました。


・・・

それは一枚の手鏡のお話。
手鏡は長い年月の中で自分が人間だった事をすっかり忘れてしまいました。
彼は自分の事を意識を持った不思議な鏡だと思って居ました。

色々な人の元を渡る内に
様々な人の姿を映す内に
鏡は人への憧れを抱くようになっていきました。
かつて自分が人を嫌った理由も出来事も忘却して……

・・・
それは人間になろうと思った鏡のお話

最後に鏡を持った人が鏡に不思議な噂を教えてくれました。
それは何でも望みを叶えてくれる、真っ黒な影のお話。

鏡はそのお話を聞いて
どこか懐かしくなったのですが、それが何故なのかはわかりません。

そして鏡は決めました。
どんなことをしても
どんなことをされても

憧れの人間の身体を手に入れたい…。
そして鏡の最後の持ち主
ドラクルという男が見せてくれた赤ん坊を
人になって、両腕で抱き締めてみたいと思ったのです。

どんなことをしてでも…

・・・

それは人だったことも忘れた鏡のお話

長く生きた鏡は賢いのに愚かでした。

人になって愛おしい子供を抱く為に黒い影に会う為にその愛おしい子供を犠牲に。

愚かなので気付かないのです。

何度も何度も繰り返している事に。

人間から鏡に
鏡から人間に

平行世界を永遠に繰り返している事に気付かないのです。

人間から鏡から人間から鏡から人間から鏡から人間から鏡から人間鏡人間鏡鏡人間鏡人間人間人間………

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