霧の本

□青と赤
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「後ろを向いて下さい」
そうマゼンタは呼びつけたシアンに要求する。

「…何故?」

「り、理由とか問わずに後ろを向いて下さいシアンさん!」
冷ややかな目に思わずドキリとしながらマゼンタは再度後ろをむくように言った。
「…わかったよ」
理由を聞いても埒が開かなそうなので
シアンは言葉に従いマゼンタに背を向ける
「有難うございます、じゃあ…これを…こうして…」
「何をしてるの、マゼンタ」
何やら髪をまとめられて、シアンはマゼンタの奇妙な行動の理由を問う。
「ふふ、シアンさんにプレゼントですよ」
出来た、といってマゼンタはシアンを連れ鏡の前へと向かう「?」
「シアンさん、髪がだいぶのびてきましたから…こうすれば可愛いかなって」

にっこりと微笑むマゼンタに
シアンは髪を縛るリボンに触れながら
礼を言った
「…ありがとう。
でも…」

「?」

「可愛いかどうかは、解らない」
「そんな、とっても可愛いですよ!!」
「ちなみに髪を装飾してる物体も見えないよ。」
「あ…それは」
しまった、とマゼンタは後悔する。
真後ろで髪を縛っていては
鏡を正面から見てもわかる筈がない。

「じゃ、じゃあ一度ほどくのでそれを見て納得して下さいっ可愛いですからっ!」
「いや…いいよ」
「へ?」
「…さっき、結構手間取ってたみたいだから」
「うっそれは…」

「いいんだ。君の優しさ…かな、…それが見れたから。
僕は…これを嬉しいと感じるのか、まだうまく掴めないけど…有難う」

それはシアンなりの精一杯の感情表現だったのだろう。
それを見たマゼンタは彼を思わずむぎゅっと抱き締めていた。
それはまるで幼い双子がじゃれあうよう、
事実双子のようなものであるが…

「ごめん…言い方が悪かったかな。」
「いえ別にこれは怒りとかそんなじゃないですよ!
ただぎゅっとしたくなりまして」
「思った事を行動に移したの…?

マゼンタは本当に人間みたいだ。」
ただ率直な感想を告げるシアン。
しかしそれを見たマゼンタは
「シアンさんだって、人間みたいですよ」
「…」
「大丈夫ですよ、私…見ちゃいました。
さっき、一瞬ふわっとしてましたから。」
「ふわっと…?
ごめん、ちょっと意味が…」

「え…えっととにかく!
私が人間みたいなら、シアンさんだってそうなんです。

あ…そうだ!」
そこでマゼンタは何かを思いつき

シアンに向き合う

「今度のご飯、ご主人様の好きなものを作ろうかなって思ってまして…!!
シアンさん、聞いてきてくれませんか…?」
「突然だね、構わないけれど…」
「有難う御座います♪
きっとその時、ご主人様もリボンに気付いて可愛いって言ってくれる筈ですよ!」
「そう…かな」
「絶対そうですよっ
シアンさんもご主人様にそう言われたら嬉しくなれますよ」
「…わからないよ」
「大丈夫、
それに…シアンさんだって本当はそう言って貰いたいと思いませんか?」
随分とごり押しだったが、
根負けか、それとも本当にそう思ったのか
シアンは俯いたまま、僅かに頷いた
「…そうかもしれない」
その返事にマゼンタは微笑むと
「じゃあ、やっぱりシアンさんも私とおんなじ人みたいな…いえもう人間ですからっ!」
「…う、うん」
さすがに引き気味な対応を返しつつも
シアンはマゼンタに送り出される

「確か…観測室に居たかな…」
マゼンタにつけてもらったリボンに触れてみる

…多分、褒められなんてしないけど…

心のどこかで、
それを望んでる気もする。
きっと…これが感情なのかもしれない

「僕も…人みたいに…」
思わず、言葉に出してしまったが
心のどこかに暖かい何かを感じながら

シアンは主であるブラックの元へと向かった…。

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