霧の本

□黒と青
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…月/…日/濃霧


窓の外は相変わらず陰鬱な印象を醸し出す霧が広がっていた。

殺風景な観測部屋の中、俺は霧の状態を記録していく。

今日はとりわけ霧が濃い…
麓の村に良からぬ影響が出ていない事を祈りつつ、記録を続けた。

この作業を初めてからどれくらい経っただろうか…

倦怠感にも似た、ひどく嫌な感情が、
溜め息という形となって口から零れる。

勿論…欠かしてはならない大切な作業である事は理解している。

しかし、ただただ続ける事しかない、この単調な作業が

未だに結果が出せない自信の研究と重なるのだ。


この危険な霧をもたらしたのは、オレを生み出した本当の俺。
その責任を取るのは複製体として作られたこのオレで、

霧に侵された人体、果てには霧そのもの…
そんな漠然とした物事への対策を
長い長い年月をかけて取り組んできた。
最初の内は手探りで…
次第に何かを掴んでいき…

今ではあの霧の魔物を人間へと近付ける所まで至った。

俺を含む、霧の影響を受けた人間は霧から離れて生きていく事は出来ない。

しかし、霧の魔物と呼ばれる生物達は違う。
種にもよるが、発見された殆どの種が霧から生まれた身であるにも関わらず
霧からの独立が可能だった。

そんな彼等のように、霧に頼らず生きていける人間…。
その可能性までは行き着いた。

しかし、
人と魔物の遺伝子を掛け合わせたもの同士を、
更に何代にも渡り交配を繰り返し、人間へと近付けていったが

やはりそれは完全な人では無かった。

唯々同じ行動を繰り返す、不完全な複製体の村人達よりはマシだとしても…。

幸いにも、霧の影響で老化する事が無い体のお陰で
何代にも渡る交配実験を観察し続ける事は用意だった…
出来る限り人に近い生活環境をと思い
最低限の実験を覗けば、極一般的な対応で接し

その成長を見守り、観察する。

他の研究と併用しながら続けて来たが

ここ暫く
何らかの結果が出る訳でもなく

ただただ忍耐が磨耗していくだけだった。

正直いって…
そろそろ限界だった。






本当に…参ってしまっていたのだ。




 


 
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