夜の本

□異端審問官と蜘蛛
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〜私は影だ。
あのお方の影なのだ。〜
それはいつもと何ら変わらない日常。

「ほら旦那様、急いだ急いだ!」
助手の男の急かす声。
「うん。急いでるよ。」雇用主の返答。
「いや、全然急いでませんよ!?そんなとことこ歩いてちゃ駄目でしょうよ!」
このペースじゃ会議に遅れちまう!!と、助手の男は主のカンダタを急がせる為に強く押した。
「わ」
彼は呆気なく馬車へと乗り込まれた。
「よっしゃ、シェイド君飛ばして!!
いっそ飛んじゃって!フライハイ!!」
助手も馬車に乗り込むと、御者に向かいそう呼びかけた。
「Σ飛べん!!無理を言うな!」
シェイドと呼ばれた御者は、助手の無茶ぶりに反論する
しかしこの馬車、
急いでるにしては妙な違和感があった。
そう、馬車に不可欠な馬が居ないのだ。
しかし、御者が指を鳴らして合図をすると、
どこからか無数の蜘蛛が集まり
一瞬にして見事な二頭の黒馬が現れた。
「シンデレラみたいだよね」
「喋ると舌を噛みますよ、カンダタ様」

御者の合図と共に
馬車は走り出す。

その日のカンダタが所属する組織の重役会議には何とかギリギリ間に合ったのだったが…。

会議後、殆どの関係者が去った中、
カンダタ一行を良く思わない二人の男が不穏な空気を作っていた。

「…今日もギリギリのご到着か。
天才だか何だか知らんがいい御身分だ。」
男が一人、忌々しげに呟く。
「はは、実際いい御身分ですから、こちらからは何も言えないですけどね」
愛想笑いを浮かべるもう一人。
「ああそうだ、何も言えやしない。
…そんな奴が上に居るよりも
もっとマシな奴が上に居た方が組織は良くなるというのにな。
そうは思わんか?」

「えぇ、まぁ…
そりゃそうでしょうけど、…どうするんです?」
「お前の頭は飾りか?

奴に疑いをかけて引きずり落とすんだよ…

疑いは奴じゃなくてもいい。
身近に居る奴だ。」

「何かでっち上げるんですか?」

「いいや、ボロを出させるのさ。
俺の知り合いに教団関係者が居てね。
あそこの異端審問官は、かなりのやり手らしい…そいつらの手にかかりゃ」
「なるほど…そいつはいいですねぇ。」

「クク、奴の慌てふためく顔が…
……想像出来ん。忌々しい奴め…」
「で、誰に疑いを着せるんで?」
「正直どいつも疑わしいが… そうだな、会議の際に影響を及ぼすだろうし…

あの御者の男にでもするか。」
「なるほど、
そいつはたまらないでしょうね。」
「嫌疑をかけられたが最後…一般人はまず戻れんだろうからな…」
「おかわいそうに…」

そうして二人は、あくどい笑みを浮かべると
今回の物語の引き金を引いたのだ…。
そして、数日後

「カンダタ氏の所の御者はお前だな?」
「確かにそうだが…私に何か?」
「さるお方から、お前が邪悪なものであるとの嫌疑がかけられている。
来てもらおう。」

「……拒否権は?」

「無い。来い!!」
シェイドは数人の集団に連れられ、強制的に教団本部へと行く羽目になってしまった。


残酷なお話の始まり始まり…
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