夜の本

□茨と仕置き
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「あなたはここに居てはいけません」

暗い閨の中。
一人の少女とも少年ともとれる幼い妖は、
眼前の人間の子供の手を取り、言った。

「ここは私が引き止めます.あなたはこのまま逃げて下さい」

人間の子供…美しい少年は怯えた瞳で眼前の妖に問う。

「イバラは?
イバラは逃げないの?

このお仕事嫌なんだよね…?」

その問いに、イバラと呼ばれた妖は、少し寂しそうな表情を浮かべたが
それを見せまいと子供をしっかりと抱きしめた


「…私は今まで、私にしか出来ないこのお仕事で沢山の子供の人生を狂わせてしまいました。

それは伽話を聞かせるように、優しく、ゆっくりと。
そして、ちらりと部屋の外を伺いながらも静かに。
「止めることも逃げることも許されない…でも、そんな中でも…あなたのような子を逃す機会はあるんです」
あやすように優しく、そっと背中を撫でた後、
イバラはこみ上げる名残惜しさを抑え、子供から離れる。そして笑顔を作りこう告げた。

「あなたが無事、逃げれるだけで私は救われますから」
「でもそんなことしたら、イバラは殺されちゃうよ。お兄みたいに」
子供の言葉にゆっくりとイバラは首を振る
「大丈夫、このお仕事は…貴方たちの体を作り変える事が出来るのは私しかいないのですから…私は殺されずに、生かされているんです」
だから…とイバラは続ける。
「私にだっていつか、逃げる機会が来ます.
だから、その時は…どこかでまた会いましょう」
ね?と優しく子供を諭し、
こっそりと用意した秘密の出口に彼を向かわせ…
イバラは寂しさをぐっとこらえ
そのまま部屋にて経過を尋ねに来る恐るべき主を待った。
仕置きは覚悟の上、少しでも、少しでも時間を稼がなくては。

「商品の方は?」
問い掛ける主に、イバラは
「疲れ果てて眠っています。
やはり、お子様ですね…
あ、千両様!
お子様といえばですね、最近面白い話が…」
それとない話題を振って注意をそむけようとしたその時だ。
裏口の方で騒ぎが起きた。
その瞬間、主、千両は傍らに控えた使いの者を一瞥すると
使いは馴れたように何かを言おうとするイバラを取り押さえた。

その間にもう一人は部屋を探す。
そして商品の子供がその部屋にいないのを確認すると

「懲りないやつめ」
と低い声でそう告げた。
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