薄桜鬼

□陽光
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最近、
僕には趣味ができた。

というよりは、遊び相手・・・かな?



八木家の子供たちと遊ぶより楽しいし、

佐之さんたちに付いていって
島原の女の人と遊ぶより
飽きない。




そんなおもしろい子が
屯所に居候してる。


その子をからかって
反応を見るのが
最近の僕の楽しみ。











... 陽光













最初は僕だって

新選組の秘密を
知っちゃったような子は
殺しちゃった方が
いいと思っていたけど・・





もう屯所に来て半月。


一回も逃げ出そうと
しなかったし、

面倒な掃除とかも
やってくれてるみたいだから


生かしておいても
いいかなーなんて
思っている僕がいる。



それに、
この子の作る飯は
江戸の懐かしい味がするって
近藤さんが
凄く喜んでるみたいだし。















だけど、
土方さんなんかは
この子のことになったら
すごい過保護で
嫌んなっちゃうんだよね。


僕がちょっとでもこの子に
ちょっかい出すと怒鳴るし。


・・・自分はちゃっかり
この子とお祭り行ったり
してるのにさ。






・・・・・・。










・・・・あーでも、
そこまで土方さんが、
執着してるこの子を
僕が斬っちゃったら
土方さん、どんな顔するかな。


ちょっと気にならない?










****










冬晴れの
風のない穏やかな日。

春が近づいているのを
告げているように、
庭の樹々には
新芽が息吹きはじめてる。


昼飯はもう済ませたけど
ちょっと小腹が
すいてきたかなあ、なんて
思いながら

だいぶ暖かくなった日差しが注ぐ
中庭に沿った縁側に
ごろんと寝転んで・・・・




僕が、今、君を
斬っちゃおうか
考えているなんて
全然知らない千鶴ちゃんは、

中庭に出て
せっせと洗濯物を
取り込んでいる。








千鶴:
「・・・・どうしました?」


僕の視線に気づいたのか、
千鶴ちゃんは
洗濯物を取り込む手を止めて
きょとん、と、
まるまるした瞳を向ける。


その、
真っ直ぐで綺麗な
彼女の瞳が
僕を気にかけてくれる事が
この日だまりのように
心地いい。


僕は少し顔が緩むのを
感じながら

「なんでもないよ」

と答えた。



千鶴ちゃんは
「???」といった表情で
しばらく僕を
見つめ返していたけど

相手にしないでいたら
彼女はまた作業に戻った。


だからまた僕は
千鶴ちゃんを見る。





乾いた洗濯物を
物干し竿から取って
籠に入れることの繰り返し。

その動作は
ひょこひょこと、
まるで兎のようで


おもしろいなあ。


僕は一人
顔をにやけさせる。













やっぱり
斬っちゃうのは・・・・・・










・・・・あ。











土方:
「千鶴、」



せっかくいい気分だったのに
関わりたくない人が
手拭いで汗を拭きながら現れた。


千鶴:
「土方さん!
お稽古お疲れ様です!」



土方:
「ああ。
悪いが、それが終わったら
俺の部屋に
茶を持ってきてくれ」







・・・自分で淹れれば
いいじゃないですか。

口には出さないけど。



千鶴:
「わかりました」


そう言って
彼女は
ふわっと笑う。




土方:
「・・・二つ、頼む」




千鶴:
「二つですか?
お客様が
来られるんですか?」



土方:
「いや・・・

実はだな。
さっき近藤さんに
金平糖をもらったんだが・・
俺はあんまり
甘いものは好かねぇんだ。

お前、食うか?」



千鶴:
「え、いいんですか!?」


土方:
「ああ。
食わねぇで駄目にしちまうのはもったいねぇしな。」



千鶴ちゃんは、
ぴょんと飛び跳ねながら
嬉しそうに
手を合わせる。



千鶴:
「ありがとうございますっ!」







・・・・・・。







土方:
「ん?
なんだ、総司
そんなとこで寝てると
風邪ひくぞ。」




僕の存在に気づいたみたいで
そう声をかけられたが

僕はそっぽを向いて
寝たふりをする。



土方:
「ったく、
おい!総司!」







ほんと、
目の上のたんこぶって
この人のことだよね。


「なんですか?
金平糖で女を口説く
鬼副長さん。」



土方:
「なんだと?」




顔は見えないけど、
あの人が
どんな顔をしてるか
手に取るようにわかる。


眉間にこーんなしわ寄せて
すんごい吊り目で
僕を睨んでるでしょ、きっと。


これ以上つっかかったら
後がめんどくさそうだし・・


「・・・いいえ、
なんでもないです」












千鶴ちゃんがなにも疑わないのをいいことに

甘い物で誘惑して
部屋に誘い込むだなんて。


こんな人を
どうして近藤さんは
信用してるんだろう。


それに、千鶴ちゃんも
千鶴ちゃんだよね。


土方さんとか一くんは
下心が見え見え。

そんなの
どっからどー見ても
わかることなのに、
千鶴ちゃんは
善意と勘違いして
嬉しそうに喜んで。


なんだか
もやもやするっていうか・・

不愉快な気分になる。



どうして僕が
こんな嫌な気分に
ならなきゃいけないのさ。




やっぱり
斬っちゃおうかな。



千鶴ちゃんがいなければ
こんな気持ちには
ならないだろうし。






そんなことを考えてたら


千鶴:
「沖田さん?」


と、
すぐ近くで声がした。

洗濯物を
取り込み終えた彼女が
籠をかかえて
戻ってきたようだ。

だけど僕は
彼女の方を向かずに、



「なに?何か用意?」


と、
ぶっきら棒に返す。



千鶴:
「土方さんが
おっしゃってたように、
ここで寝ていたら
お風邪をひいてしまいますよ」


「僕が風邪をひこうが
ひかまいが、
君には関係ないでしょ?」


千鶴:
「そんな・・・・」


「いいから、
早く土方さんの
部屋へ行ったら?」



千鶴:
「・・・行けません」


ちょっと予想外な返事に
僕は思わず振り返る。


千鶴ちゃんは
困ったような顔をしていた。




「どうして?」




千鶴:
「沖田さんが、
心配だからです。
どうしてそんなに
不機嫌なんですか?」


そして今度は
悲しそうな顔になって、


千鶴:
「私、何かしましたか?
もしそうなら
謝りたいので
教えてください・・・」




千鶴ちゃんに
こんな顔させてるのに
なぜだか
僕は少し嬉しくなった。

彼女が僕を気にかけて
僕のことで悩んでる。





「別に、
何もないよ。」




そう言っても
彼女は僕のそばに
突っ立ったままで。




「・・・いつまでそうしてるの?

早く土方さんのとこへ
行かないと
あの人五月蠅いよ?」



少し突き放した言い方で
僕がそう促すと
彼女はとうとう

わかりました、と
返事をして
屋敷の中に消えて行った。







あーあ。




近藤さんも
千鶴ちゃんも。

僕の大切な人は
みんな僕より土方さんを
信頼してる。





・・・・あれ?大切?



僕があの子を
大切だと思ってるの?



近藤さんは
大切な人だけど・・・





あの子も・・・・?



さっきまで、
斬っちゃおうかと
思ってたような子だよ。

どうして
そう思ってたんだっけ。


だって、
あの子が僕以外の人と
楽しそうにしてるから。







あの子は、





僕にとって・・・














−ふわっ−



ふいに、
僕の体の上に
薄い掛布団がひらりと
舞い落ちてきた。


見上げれば、

優しい、
日だまりのにおいと一緒に、

今、思っていた人の
顔があった。




「千鶴ちゃん?」



千鶴:
「せめて、
これを掛けていてください。

日は暖かいですが、
まだ少し肌寒いですから。」



そう言いながら、
彼女自身、
膝掛けをかけて
僕の隣に腰を下ろす。



「土方さんと
金平糖を
食べるんじゃなかったの?」



僕が彼女の行動に
とまどっていると、


千鶴:
「お茶は出して来ました。
だけど、金平糖は
やっぱり遠慮してきました。」



益々
訳がわからない。


あんなに喜んでたのに。


「どうして?」




千鶴:
「沖田さんが、
心配だったので」



そう言いながら
彼女は優しく笑う。





その笑顔を見た瞬間、
僕の中で
ぷつりと何かが
吹っ切れた音がした。




そうか。
僕は・・・





千鶴:
「きゃっ!?」


考えるよりも先に
体が動いて、
僕は彼女の腕をひっぱり、
無理やり自分のもとへ
引き寄せる。



千鶴:
「沖田さん!?」


そのまま彼女も
寝転ばして、
ぎゅーと抱きしめれば

僕の中の
もやもやも
不愉快な気分も
すーっと消えていった。




「さっきはごめんね」




自然と口から
素直に言葉が出る。



千鶴:
「いえ、
私こそ何かしてしまったなら
すみませんでした。」



「うん。
だから今度からは
しないでほしいことが
あるんだけど」


千鶴:
「・・・はい、なんでしょうか?」


「もう、土方さんには
近づかないで。」


千鶴:
「えっ?」


「あと、一くんも。
ああ。佐之さんと平助もかな」



千鶴:
「それは・・・」



「僕以外、だめ。
僕だけを気にかけて。
僕だけのそばにいてよ。」



千鶴:
「・・・・・どうしてですか?」



彼女はもぞもぞと
僕の腕の中から
ほんのり桃色に染まった顔を出し、
遠慮がちに僕を見上げる。


さっきまでは
そんな反応が
おもしろかったのに・・・


今は
かわいいと思うよ。



どうしてって
それは、気づいたから。




「君が、好きだからだよ」







end

.







・・・・・オマケ・・・・・・・・・

永倉「え、俺は!?」






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