短い針
□夢みたいな
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壊れた音がした夜
久しぶりに会う君は少し痩せていて、ひどい咳をしていた。彼がどんな生活をしているのか私はまだ見たことがないので何も言葉が出てこなかった。ちゃんと食べているのか、風邪薬はあるのか、なんて言うのは簡単だけど、なんとなく言葉にしたくなかった。距離とか時間だとか、つまらない事を感じたくなかった。
彼の車に乗って。少し前まで毎日のように乗っていたのに、違和感を覚え、思わず彼ハンドルを持っていない方の手を取った。彼は数ヶ月前と同じように私の手を包みこんで力を強くして握った。私は寂しかったんだ。その時体からそう思った。
彼は遠い街から帰ってきた。無理矢理時間を作って私に会いにきた。小躍りする気持ちで待っていたのになんだか泣きたくなって、乾いた絵の具みたいになってひび割れた。もう20時の出来事。