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□小瓶の中の氷砂糖
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小さな小瓶にお菓子を詰めることが昔から大好きだった。




「あんまり食べると太るぜィ」





甘くて、砕くと涼しいと感じるほどに冷たい氷砂糖を舐めてると、沖田さんが汗をかいてやってくる。




夏でも冬の日みたいに清々しい顔をしている沖田さんでも汗をかくらしい。




上着を脱いだ格好で、暑そうに胸元のシャツをパタパタと仰いでいた。



「うまいんですかィ?」



「美味しいですよ」



「一つよこせ」



「イヤです」




透明な小瓶に入れた氷砂糖をサッと見えないように隠す。




涼しくもない部屋で唯一清涼感を味わえるものを渡すはずがない。




「ケチくせェ」




「私はケチです」




ぷい、と顔を背けた先に、上半身裸でラケットを振り回す人。



フンフン言いながら光る汗とても涼しく感じる。




「なんでィ、山崎見てたんかィ?」




沖田さんに頭を小突かれる。




ギロっと睨めば、沖田さんはニヤニヤと笑う。




「変なふうに誤解しないでください」




「別に俺ァ何も言ってねェけど」




氷砂糖を一つ、小瓶から取り出して口に含んだ。




口の中に広がる仄かな甘さ。




「沖田さん、仕事はいいんですか」




「あぁ、俺?いいんでさァ、全部土方がやってくれるって」




「・・・可哀相な副長」




「お前だって女中の仕事放ってるくせに」




「私は休息中です」




スマッシュの練習を始めた山崎さん。




沖田さんと二人でそれを眺めながら、溶けて消えた口の中に、新しい氷砂糖を放り込む。




甘くて涼しい。






「なぁ・・・俺がアンタのこと好きだって知ってやすかィ?」






しゃり、と音を立てて氷砂糖が崩れる。





溶けていく柔らかい食感。





「・・・沖田さんこそ知ってますか?」





氷砂糖の入った小瓶を沖田さんに見えるように手に乗せる。





ぎっしりと詰められた氷砂糖。





「あぁ・・・知ってらァ」





沖田さんは苦笑した。





フンフンとラケットを振り回す山崎さんが、




小さく小瓶に映りこむ。





「私のこの小瓶は、氷砂糖専用ですから」





「それは俺ですかィ?」





「沖田さんは・・・」








詰め込んだ小瓶には、仄かに甘い氷砂糖。









「甘いキャラメルです」





氷砂糖以外、





この小瓶には、





どんなに甘いお菓子も入らない。







小瓶の中の氷砂糖








2009.07.28
沖田さん・・・つくづく可哀相。
振り分けを沖田にしようか山崎にしようか少し悩みました。

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