book御題
□04.おねむ
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「くそー、なんだって俺が買いに行かされるんでィ」
「まぁまぁ、じゃんけんで負けたんだから、しょうがないですよ。文句なしの勝負でしたから」
ガタガタと揺れる放課後の電車に乗って、隣でソーセージを頬張っている山崎と一緒に任務を遂行していた。
今はそれを終えて学校に戻るところだ。
任務なんて言うけど、そんな大層なもんじゃねェ。
もうすぐ始まる体育祭。
グループ別の応援に必要な道具を買って来ること。
「任務って聞こえはいいかもしれないですけど、要はパシリですよね」
「けっ。それもこれも、じゃんけんで決めようなんて言い出したチャイナが悪ィんだ」
チャイナ、とは「早弁」「怪力」「凶暴」な神楽のこと。
まるで某雑誌の三原則でさァ。
本当なら応援団長の志村弟と、副団長のチャイナがこの役目をやるはずだってェのに・・・。
「何が“公平にじゃんけんするアル”だよ。テメェが坂田先生から離れたくねェだけじゃねぇか」
苦笑する山崎の頬を抓ってやる。
「いだだだだっ!」
山崎は涙目になって、それでも抵抗せずに俺に抓られている。
「俺は部活に行きてェんだよ。山崎なんとかしろよオラ」
「そ、そんなこと言われても、ほらもうすぐで着きますからっ。ていうか、なんで急に部活に精を出すようになったんです?今までサボることはないにしろ、“部活に行きたい”なんて一度も言った事なかったのに」
はた、と抓るのをやめる。
「沖田さん?」
そういえば、この間も自分で思ったな。
なんで俺はこんなにも部活に行きたがるようになったんでさ。
いつから?
三年生に進級してからか?
いや、それより前か?
「あ、ほら沖田さん、着きましたよ。行きましょう」
山崎に荷物を全部持たせ学校へと戻る。
その間山崎は「なんで俺が一人で・・・」とぶちぶちと文句を言っていが、そんなのは全部無視した。
教室でワーワー騒いでいる応援団に荷物を届けた。
珍しく眼鏡をしていないチャイナが礼を言って、かなりゾッとした。
何かいいことでもあったんか、と聞くと「銀ちゃんが私の眼鏡壊したから弁償に酢昆布大量に買わせたアル」と嬉しそうに言った。
そんなこったろうとは思ったけど、眼鏡が酢昆布でいいのか?
部活に行くため荷物を揃えていると、「3年Z組の沖田総悟。パシリから帰ってきたらすぐに部活へ来い」とムカつく野郎の声が教室のスピーカーから聞こえた。
「あんの土方の野郎・・・」
今度こそ殺してやらァ。
すたすたと歩いて他の教室の前を歩いていく。
普通校内放送使ってあんなこと言うか?
まぁ、俺もこの間「マヨネーズ王国から来た王子様、いたらコロッケパン買ってこいよ〜」なんて昼の時間にしたけど。
階を降りて、ある会議室の前を通りかかったとき、俺は自然と歩みを止めた。
会議室のドアが開いている。
その室内に、頬杖を付いて座っている奴がいる。
黒髪の、重苦しい前髪。
あの子だ・・・。
広いデスクの上に広げられているのは、体育祭関係の小道具や資料。
実行委員、なのか?
他に誰もいねェ。
カクッ、とあの子の体が崩れる。
慌てて体勢を整えたと思えば、また頬杖を付いてうとうとしている。
さらさらと揺れる黒髪。
居眠りしてらァ・・・。
足音を立てないように傍に近付く。
彼女の隣の椅子に、音を立てないように静かに腰を降ろした。
・・・久しぶりに見た。
二週間くらい前に、グラウンドで走る姿を見た時以来だ。
眠る彼女に、そっと手を伸す。
触れた髪。
驚くくらい細くて、柔らかい髪にドキッとした。
疲れてるのか、俺の気配にちっとも気が付かねェ。
本気で爆睡してるらしい。
頬杖をついているせいか少し目が釣りあがっていて、時々体がピクっと震える。
「・・・ちょっと、無防備なんじゃないんですかィ?」
そんな姿を“可愛い”と思ってしまうのは、頭のどこかがおかしいからなのだろうか。
04.おねむ
二度目の呼び出しがかかるほんの少しの間、俺は彼女の寝顔にずっと見とれていた。