book御題
□03.きらきら
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「おい、沖田。最初に言っとくけど、テメェあんまサボってっと留年すっからな」
おおよそ教師には見えねェ面で、それこそ煙草をふかしながらその男は言った。
放課後に職員室に呼ばれて来てみれば、問答無用で椅子に縄で縛られた。
「その上級テクニックはどこで覚えたんですかィ?」
「テメェらみたいなのを縛る度に、今じゃありがてぇことに上級者だよ」
見せ付けられた2年生の時の成績表に「国語1」と表記されている。
「なんで俺の国語だけなんだよ、ったく」
「そりゃ、どうもすいやせん」
溜息をつかれた。
「お前な、俺のおかげで出席扱いしてやってんだからよ、テストくらい点数取れよ。じゃねぇと俺がお前の面倒片っ端から見なきゃいけなくなんだよ」
それが教師のセリフか。
「おい、わかってんのか?」
「わかってやすよ、坂田先生。次はちゃんと勉強しますから」
坂田銀時。
俺の悪友。
まぁ、俺が勝手にそう思ってるだけだけど。
ダルそうにやってるくせに、妙に鋭い時がある。
憧れ、とも言える。
それから長い説教が続くわけでもなく、すぐに縄を解いてもらった。
「3年になったんだから、ちっとは勉強しろよ」
すたん、すたん、と軟弱な足音を立てながら放課後の廊下を歩く。
やべェ、もう部活始まったな。
土方さんにまたどやされる。
あの人はなんでいつもあんなに血管浮き上がらせて怒るんだろ。
もうちょっと俺を見習って欲しい。
冷静で温和で何事にも動じねェこの俺を。
剣道場まで差し掛かったとき、そこから見えるグラウンドでは大勢の野球部やサッカー部が大声を上げて練習していた。
男の暑苦しい体格が奴等の青春を物語っている。
そいつらの向こう側をふと見た時、俺の目は動きを止めた。
髪を後ろに束ね、前髪をピンでとめている女。
動く度にピョコピョコと跳ねるポニーテール。
あの白いジャージは陸上部の・・・。
風のように、軽やかにグラウンドを駆けていく。
遠くからでもわかる。
遠くからでもわかってしまった。
大勢がグラウンドで練習する場所の中から、俺ァ見つけてしまった。
「・・・あの子でさァ」
息を弾ませて足を止めた彼女が空を見上げた時、
グラウンドで練習している誰よりもきらきらと輝いて見えた。
03.きらきら
たぶんそれは、俺だけが感じた錯覚。