デジモン短編
□プレゼント
1ページ/3ページ
部屋で料理を用意して終えて、後は客人が来るのを待つ。
壁に掛かった時計で現在時間を確認し、一息ついた。
今日は空の誕生日だ。
しかし、社会人になりそれなりに忙しい太一と空である。二人は、今日、空のアパートでお祝いをするという事しか決めていなかった。
「お前の誕生日なのに…ごめん」とひどく落ち込みながら謝る太一は記憶に新しい。
外交官としての道を行く太一は仕事が山積みであり、休みが取れなかった。
なのだが、空はさして気にならなかった。
その謝る姿は逆に自分をいかに大切に想われているか示していた。それだけで空は太一を許すのに充分だったのである。
回想にふけっていた時間は存外長かったらしく、アパートのチャイムが待ち人の来訪を告げた。
「おかえりなさい」
「おう。ただいま」
玄関をあければ予想通りのツンツン頭が立っていて、自然に「おかえり」と「ただいま」をやりとりする。
そうして上着などを受け取ろうとした空の前にビニール袋が突き出された。
「何、これ?」
「来る途中で買ってきた。やっぱり誕生日は特別だろ?」
ビニールの中から覗くのはワインのボトルだ。
空は自分と、その誕生日を当たり前のように特別扱いしてくれる太一の気持ちが嬉しかった。
その後、太一のワインで乾杯して二人が待たせていた料理を楽しんだ。
太一が「やっぱり空の手料理が一番だな」と言えば「もう何度目よ」と空が返す。
他愛のない会話でも今日一日で最高の時間だと思うのだから、末期である。
だが、それは太一がそこにいてこそ生まれる感情なのだろう。
『あぁやっぱり末期かも……』
なんて考えていたら、太一がやけに真剣に空を見ている事に気がついた。