デジモン短編

□きみの想い あなたの温度
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「大輔くん、遅いな……」

 ざわざわとした音が辺りを満たしている。それもそのはずで、ヒカリと大輔は夏祭りに来ていたのだ。
 以前は仲間達で来ていたこのお祭りも、互いに恋人となってからは二人きりで来ている。

 なのだがヒカリは今、ひとりぼっちだった。自らの浴衣姿を見て、何度目かのため息をつく。

 元々規模もそれなりで、他県からも大勢の人が集まるのだ。 ヒカリと大輔も去年ははぐれてしまい、時間を無駄に使ってしまった。

 その反省からなのか、はぐれた時のための待ち合わせ場所を大輔が決めた。
 決めた時は、必要ないだろうという気持ちもあった。しかし、現にこうしてはぐれてしまっている。

  だからヒカリは一人で大輔を待っていた。

 待ち合わせ場所の神社は会場から少し外れていて、人気も少ない。

「……大輔くん…」

 携帯には焦った大輔の声が録音されていて、「すぐいくから!」という言葉を信じるしかなかった。

「…〜…〜」

 しばらくして人の近づいてくる気配がした。
 一瞬大輔だろうかと思ったが、違った。複数の話し声がする。
 そうしてヒカリの視界に現れたのは二十歳前後の3人組の男だった。
 男たちはヒカリを見つけると、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべ近寄ってきた。

「ねぇねぇ、今一人?」

「なかなかカワイイ〜じゃん」

「どう?俺たちと遊ばね?」

 そんな文句で言い寄ってくる男達にうんざりしたヒカリは、ひとまず離れようと考えた。

「人を待ってただけなので。
さようならっ」

 剣のある言葉を浴びせて足早に立ち去る。すれ違った男の顔は、しかし不気味な笑いを見せたままだった。

 そして。

「っ!?」

「残念でした〜」

 突然、ヒカリは後ろから羽交い締めにされた。引き離そうとしても、力の差で敵わない。
 さらに正面から口に布を当てられ、次第に意識が遠のく。

 あの海が、見えた気がした。

『…大輔…くん』

 心の中で彼の名を呼んだのを最後に、ヒカリは意識を手放した。

* * *


「ヒカリちゃんを放せーっ!!!」

* * *

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