デジモン短編
□雨模様
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7月後半。季節を若干、外した豪雨が降りしきる。
そんな暗い空を悔しそうに見上げる少女がいた。
「しまったなぁ〜」
もうこれで何度目だろう。だが、いくら叫んでも足りないくらの後悔で彼女の心はいっぱいだった。
確かに予報は雨マーク。しかし、朝は夏の陽射しが程よかった。
だからこそ、荷物になるだろう傘を置いてきたのだが…見事に予報通りとなってしまった。
「賢くん、まだ待ってるかなぁ…」
久しぶりに会うはずだった恋人を想う。
以前から会う約束をしていたのである。丁度、テストの終わりが重なり午後から二人で居られるはずが、自らの失態で時間ばかりが過ぎている。
「しかも、寄りによって携帯も電池切れ。全く私って…」
最悪、走って駅まで行こうかなどと考えていた京の耳に雨音とは違う音が近づいてきた。
「京さん。やはりこちらだったんですね」
「け、賢くん!?」
目の前に立つのは、紛れもなく自分の愛する人。なのだが…
「待ち合わせ場所から遠くなかったの?」
普段、賢は京と違う学校へ通っているし、住まいも遠くだ。
だから今回も二人がそれぞれ遠すぎない場所を待ち合わせにしたのである。
こんな遠くまで来てくれるとは思っていなかった。
「僕にとっては、京さんと会うことの方が大切ですから」
僅かに頬を染めながらも、中々に恥ずかしい台詞を口にする彼が、愛しい。
「ありがとう、賢くん」
「じゃあ、行きましょう」
傘を一本だけ手にした賢に疑問符を浮かべる京。
「? 傘、二本あるの?」
「こうすれば大丈夫ですよ」
言い終わらない内に、京は手を引かれて彼の隣に並んでいた。
俗称・相合い傘 、という奴だ。
「///」
「顔、赤いですよ?」
くすりと笑う賢。
「もう!先輩をからかわないの!」
「すいません」
悪びれずに返してくる賢を憎たらしく思いながらも、素直に喜ぶ自分がいる。
今まで会えなかった分の距離が一瞬で取り払われたようで、“彼女”として平然と隣にいさせてくれる彼の行為が嬉しかった。
「ねぇ…賢くん」
「どうかしました、京さん?」
「……大好き」
「っ///」
いつもと違う“好き”に顔を真っ赤にした彼を可愛いな、と京は思う。
――この雨に感謝しなきゃね。
そう思いつつ、京は今後のプランを考える。
そうして歩いてゆく一つの傘を、紫陽花達が見送っていた。