Sーhort


災難なKISS
1ページ/1ページ





 「キス、すんぞ……こんにゃ
 ろう…」

 強靱なロープの様だったハズ
 の俺の理性は今、ほつれきっ
 た細い細い糸の様に頼りなく
 て、あと少しで切れてしまい
 そうだった。







 災難なKISS







 寒い中ムースに呼び出され果
 たし合いなるものをして来た
 俺は、疲れ切った体を引き摺
 り帰ってきたのだが…そんな
 俺を出迎えてくれる人はいな
 かった。

 そりゃあ、そうだろう…

 今はもう深夜。規則正しい生
 活をしている天道家の人達は
 、もうとっくに寝てしまって
 いる時間なのだから。

 こんな時間に果たし合いなん
 て、本当に非常識なヤツだ!
 もう一発ぐらい、くれてやれ
 ばよかったか。そんなことを
 考えながら、夜中特有の暗く
 冷たい空気の漂う廊下を、音
 をたてないように気遣いなが
 らそぉっと歩く。

 ふ、と誰か人の気配がした。
 よく見れば、居間の電気も点
 いている。

 「?」

 不思議に思い覗いてみるとそ
 こには、炬燵に入ってクッシ
 ョンを頭の下に敷き枕代わり
 にしながら眠っている、愛し
 い恋人の姿があった。

 そう。

 俺達はつい最近、やっと想い
 を伝え合い『親の決めた許婚
 』から『恋人』という関係に
 昇格することができた。長い
 こと溜め込んでいた想いをや
 っと言葉にして伝えることが
 できた時は、自分はこの世の
 どんなに恵まれた人間よりも
 幸せだと思えるくらいに満た
 された気分だった。

 気持ちを伝え合った次の日の
 朝に階段で鉢合わせした時の
 、あかねの照れたように「お
 はよう」と言った笑顔は一生
 忘れないだろう。

 これからは何の遠慮も気兼ね
 もせずに、あかねをこの腕に
 抱き締めることができる…!

 そう思っていたのに……

 現実はそんなに甘くはなかっ
 た…。


 どうやら彼女は思っていたよ
 りも照れ屋だったらしく…二
 人きりで良い雰囲気になり、
 俺が距離を詰めようとすると
 逃げ出してしまうのだ。

 逃げ出す姿もまた可愛いのだ
 が…
 俺の盛り上がった気持ちの方
 は行き場がなくなってしまう
 という切ない思いを、これま
 でに数回経験していた。

 以前までの俺なら、あかねに
 何かしたいという気持ちはあ
 っても、恥ずかしすぎてそん
 なことは表現できないでいた
 のだが…告白した日にどこか
 吹っ切れた様だ。

 拒否されても諦めることなく
 追い掛けて追い掛けて…

 そしてやっと…!
 ほんの二日前に、念願のキス
 を済ませることができた。ま
 ぁ、唇を掠める程度の軽いも
 のだったけど、それでも一歩
 進めたことが素直に嬉しかっ
 た。

 だが、一度したら満足する。
 なんてことはあるはずもなく
 …それからの俺はあかねの唇
 にばかり目が行くようになっ
 てしまった…。

 形の良いふっくらした桃色の
 、柔らかそうな……いや、実
 際柔らかかったソレに触れた
 くて仕方なかった。

 だが、つい二日前に進んだば
 かりなのにまたあかねに迫っ
 たりしたら嫌がられそうな気
 がして。それが恐くて、内心
 は触れたくて仕方ないのに、
 ここ二日はあかねに近づくこ
 とさえできないでいた。

 そんな欲求不満気味だった俺
 の目の前で今、おいしそうな
 御馳走…もとい、あかねが無
 防備に眠っている…。


 どうしよう……

 まぁ、とにかく此処で寝てい
 ては風邪をひいてしまうので
 部屋に運んでやろう…。そう
 思って彼女を抱き上げた。

 驚くほど軽い…。

 こんなにも細っちぃくせに、
 いつも強がって自分を頼ろう
 とはしてくれない彼女。こん
 なにも華奢なくせに、俺が危
 険な目に合うと自分を犠牲に
 してまで助けようとする彼女
 。

 愛しさが込み上げてくる…。

 守りたいと思う。
 自分のすべてを掛けても。

 奪いたいとも思う。
 彼女の何もかも余すことなく
 すべてを。

 こんなにも好きになれるのは
 きっと彼女だけだから…






 ******






 「…う…ん…」

 ベッドにゆっくりと横たえる
 と、彼女が薄らと瞼を開いた
 。
 そっと運んだつもりだったが
 、揺れで目が覚めてしまった
 ようだ。


 「…ら、んま……?」

 「起こしちまったか…?」

 「…ん…、…おかえり……」

 そう言ってあかねはフワリと
 、とても優しく微笑んだ。

 「……え?」

 「…ん……」

 目覚めたと思ったのも束の間
 、すぐにまた目を閉じてしま
 った彼女。

 おかえりって……

 もしかして、俺が帰ってくる
 のを待っていてくれたのだろ
 うか…?

 こんな夜中に一人で………?


 「…さんきゅ…」

 愛しさが込み上げてきて我慢
 しきれずに、こめかみに唇を
 落とした。

 額にもひとつ。
 頬にもひとつ。

 艶のある彼女の黒髪を左手で
 梳いて、右手は滑らかな頬に
 滑らせる。間近で彼女の愛ら
 しい寝顔を眺めていると、自
 然と口角が上がってしまう自
 分がいる。

 だが、ついつい唇にもキスし
 そうになったところでハッと
 我に返った。

 さすがに意識のない彼女にそ
 んなことをするのはマズイだ
 ろう…。

 そう思い直し離れようとした
 が、自分の服の袖が彼女に掴
 まれていることに気付く。

 おいおい……

 離させようと試みるも、思い
 の外強く握り込んでいて取れ
 ない。

 「う…ん…」

 恐い夢でも見ているのだろう
 か。
 眉間に皺が寄っていて、袖を
 握る力がさらに強くなった。

 「あかね…」

 軽く揺すってみるも、目覚め
 る気配はない。

 しかたなくベッドの傍に腰を
 降ろし、あやす様に彼女の頭
 を撫でてやると、安心したの
 かいつもの穏やかな寝顔に戻
 った。

 だが、袖は握ったままで…


 まずい……

 何がまずいって、このままじ
 ゃ俺の理性が保たねぇ…。こ
 こ二日間の欲求が、今ここで
 暴走してしまいそうだ…。


 「…ん…」

 薄ら開いた唇から吐息のよう
 な声が漏れる。



 …………ぷちん


 限界だった…。



 彼女の顔を囲う様に両手をつ
 き、上唇を啄む。
 唇を合わせながら頬や首筋を
 撫で、息苦しさで開いた咥内
 に舌を入れ歯列をなぞり、彼
 女のそれと絡めた。

 初めて味わう彼女の咥内は甘
 くて、脳の奥が痺れるような
 感覚がした。


 ――もっともっと深く
 全然足りない―――



 「ん……ぅ…」


 彼女の苦しそうに唸る声が聞
 こえてハッと我に返った。


 慌てて離れると、眠りを妨げ
 られた彼女は眉を潜めながら
 ゆっくりと目を開けた。


 「…ら…、ま……」

 「あ、ああ…」

 心臓がバクバクと早鐘を打っ
 ていて、今にも口から出てき
 そうなほどだ。

 だが、彼女はさっきの自分の
 行為には気付かなかったよう
 で、まだ寝呆けている。

 「ん……ゆ、め…だったんだ
 …よかった…」

 「…な、なにが…?」

 「九能せん、ぱいに…無理矢
 理…キス……された……」

 「は……?」

 「…夢で、よかったぁ…」


 先程までの緊張感は一瞬で無
 くなり、かわりに怒りが込み
 上げてきた…。


 なんで、よりによって俺とキ
 スしてる時に、九能とキスし
 てる夢なんか見てるんだよ!
 ?せめてそんな時ぐらいは俺
 の夢を見ろよ!!俺は毎日お前
 の夢見てるってのに!!

 少し理不尽な言い分だが、頭
 に血が昇っている俺は、そん
 なことに気付く余裕もなく…
 。


 「…九能にどんなことされた
 んだよ…?」

 「え……?」

 「ふざけた夢見やがって…」

 「あ……え、あれ?…なんで
 乱馬、ここに…?」

 彼女もようやく寝呆けていた
 頭が覚醒したようだが、時す
 でに遅し…。

 ゆらり、と立ち上がった俺は
 ゆっくりと彼女に近づいて行
 く。


 「え……な、なに…?」

 「夢ん中で、九能にもこんな
 ことされたんだろ…?」

 そう呟いた後、彼女の頬に手
 を添えて素早く唇を奪った。
 舌を無理矢理ねじ込み、さっ
 きよりも深くまで味わってや
 る。

 「んぅ…!」

 驚いた彼女が振り上げた両手
 を捕らえ、壁に押しつけた。

 「ん〜〜〜!!!」

 唸りながら顔を逸らせようと
 するあかね。本気で抵抗する
 彼女に少し苛立った。

 だが、このまま無理矢理なん
 てことをしてしまったら…き
 っと彼女はもう笑顔を見せて
 はくれなくなるだろう。

 それだけは嫌だ…!

 なけなしの理性を総動員して
 、唇を離した。


 「はぁ…はぁ…」

 息を切らして真っ赤な顔でこ
 ちらを睨む瞳には、涙が溜ま
 って今にも溢れそうになって
 いた。

 ちくり、と胸が痛んだが、そ
 れでもあんな夢を見た彼女が
 悪いのだと自分に言い聞かせ
 る。


 「…んだょ…九能の夢なんか
 見やがって……しかもキスな
 んてさせやがって……」

 「だ、だからっていきなりこ
 んなこと……っもう最低!」

 怒ってそっぽを向いてしまっ
 た彼女だったか、やはりあん
 な夢を見てしまったことに少
 し罪悪感を感じたのか「…夢
 のことは…ごめん…」と小さ
 く呟いた。


 「で、も!!さっきのことは許
 せないからね!!ちゃんと謝っ
 てよね!!」

 珍しく殊勝な態度だと驚いて
 いたのだが、すぐにいつもの
 彼女に戻ってしまったようだ
 。

 まぁ、確かにさっきのは少し
 やりすぎた気がする…

 「悪かったな…」

 「…もうしない?」

 「…あぁ…」

 たぶん…という言葉は自分の
 中だけで呟いておく。


 「じゃあ、許してあげる」

 そう言ってニッコリ笑ったあ
 かねはやっぱり可愛い。

 思わず見とれていると「そう
 いえばさぁ…」と話しだした
 。

 「あんた『九能にもこんなこ
 とされたんだろ…?』って言
 ったわよね?」

 「…?ああ。」

 「“にも”って、どういうこ
 と?あたし他の人にそんなこ
 とされた覚えないんだけど…
 ?」

 「あ゙っ!いや、それはだなぁ
 〜」

 「…何慌ててんのよ?なんか
 疾しいことでもあるワケ?」

 「べべべべつに慌ててなんか
 …」

 「…まさか…あんた、あたし
 が寝てるのをいいことに…な
 、なんかしたんじゃ…!?」

 「いいいいや!そそそれはそ
 のぉ〜」

 「どうしてそんなに慌ててる
 のよ!!そもそも今あんたがこ
 の部屋にいることがおかしい
 じゃない!!…まさか、本当に
 何かしたの!?」

 「ななななにかというか、そ
 の〜…」

 「っ!!最っっっ低!!!!!」


 バシ〜ンッ!!!





 その後、結局俺が何をしたの
 かすべて吐かされ、一ヵ月間
 あかねの傍に寄る権利を剥奪
 されてしまうことになってし
 まった哀れな俺。


 一ヵ月もあかねに触れられな
 いなんて…絶対に耐えられね
 ぇよ〜!!



 end..



 ■あとがき■

 乱馬君があかねちゃんのこと
 を好きすぎて暴走する話が書
 きたかったのですが、こんな
 ことになってしまいました…
 。

 いくら恋人でも襲っちゃダメ
 だよ乱馬君v笑
 わたしが書いたんですけどね
 (^^)エヘ

 乱馬君暴走系のお話は読むの
 大好きなんですが、書くのは
 やっぱり難しいです…
 わたしの力量じゃあ、こんな
 もんが限界でした(涙)

 いつもながらの駄文でしたが
 、読んでくださったアナタ樣
 、ありがとうございます!!





 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ