Sーhort


席替え
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 「ねぇ、乱馬…」

 「…なんだよ…」

 「ありがとね…?」

 「べつに……」

 いつにも増してぶっきらぼう
 な返事。けれど、二人の間を
 流れる空気はいつもより少し
 柔らかくて…

 今日だけは、喧嘩しないで帰
 れそうな気がした―――







 席替え







 『今日は席替えをします!』

 見た目はまるっきり子供だけ
 ど実は大人な我らが担任、ひ
 なこ先生がいつもの様に教室
 に入ってきてからの第一声が
 それだった。

 彼女の受け持ちである英語の
 授業時間は、よく潰れる。
 その原因は、乱馬が彼女の興
 味を物で逸らしたり乱入者が
 現れたり校長が邪魔したりと
 …まぁ様々だ。

 けれど、彼女自ら授業時間を
 潰すことは珍しい…。

 どうしたんだろうか…?


 「英語の授業内容だけがこん
 なにも進まないのは、きっと
 この席順が悪いのよ!」

 そうきましたか…
 あんまり関係ないと思うけど
 なぁ。

 「ということで、問題児の早
 乙女君は一番前のここ決定だ
 からね!」

 そう言って、彼女は教卓の真
 前の席をバンバンと叩いた。
 相当気合いが入っている様だ
 …

 乱馬のことだから、先生と向
 かい合うことになったって居
 眠りしそうだけどね。それに
 、そんなこと絶対に納得しな
 いんだろうなぁ、と思いなが
 ら彼を見やると、やはりと言
 うか…かなり不機嫌な表情で
 頬杖をついていた。

 案の定乱馬を中心に、今の席
 (主に窓際)を気に入っている
 クラスメート達がしきりに文
 句を言っていたけれど、ひな
 こ先生が五円玉を構えた瞬間
 それは収まった。

 いや…収まったと思ったん
 だけど…

 「絶対嫌だね、めんどくせー
 。俺は認めねぇからな」

 そう言って乱馬一人だけが、
 頑として譲ろうとしない。
 まぁ、先生に張り合える男は
 このクラスじゃ乱馬くらいの
 ものなので、先生と争うこと
 になってしまった場合、乱馬
 が先頭に立つことになるのは
 わかるのだが…

 わざわざ争うようなことだろ
 うか?

 確かに一番前の席は嫌だろう
 けど、どこに居たってやるこ
 とはだいたい同じなんだから
 、そんなに変わらないと思う
 んだけど…?おとなしく席替
 えに応じれば、五円玉に襲わ
 れずに済むのに…

 案の定言い争いになった二人
 は、追い掛けっこしながら教
 室を出ていってしまった。

 おかげでまた英語の授業はお
 流れ。これじゃあ席替えなん
 て言わず、普通に授業した方
 がよかったみたいだ。
 悔しがるだろうなぁ…ひなこ
 先生。ムキーッと顔を真っ赤
 にして怒る先生を想像して、
 思わず苦笑してしまう。

 まぁ自習になったことだし、
 久しぶりにおしゃべりでもし
 て過ごそうかな〜なんて考え
 ていると、あたしの席にゆか
 がやってきた。

 なぜかすごく嬉しそうに…。


 「あ〜か〜ねっ!よかったね
 !やっぱりあんたは乱馬君に
 愛されてるのよ」

 唐突に言われた言葉に、あた
 しは吹きそうになった。

 「な、な、なに言ってるのよ
 !?なんでいきなりそうなる
 のよっ?」

 「あらぁ〜顔真っ赤にしちゃ
 ってぇ。あたしが気付かない
 とでも思ってるの〜?」

 「な、なにが…?なんのこと
 ?」

 さっぱり意味がわからないあ
 たしは、頭の上にクエスチョ
 ンマークをいくつも出現させ
 ながらも必死に冷静さを保っ
 ている(つもり)。


 「え…だって、乱馬君があん
 なに席替え拒否したのって、
 あかねと離れたくないからで
 しょ?」

 「へ…?」

 ついつい間抜けな声が出てし
 まった。

 いや、確かに今アイツとあた
 しは隣同士だけどさ…

 「そんなんじゃないわよ〜。
 アイツはただ一番前の席が嫌
 だっただけでしょ?」

 「え〜…だって、乱馬君のこ
 とだからどこの席にいたって
 変わらず居眠りするでしょ?
 どうせ…」

 「ははは…そうね…」

 そこは当たってるわね…。

 クラスメートからも当然とば
 かりに言われた言葉に、わか
 っていたけどなんだか情けな
 くなる…。

 「でしょ!?だから絶対あか
 ねの隣に居たいから反対した
 のよっ!」

 「あのね〜……」

 まだ言うか…

 まぁ、そりゃあ確かに今の乱
 馬の席は窓際じゃなければ一
 番後ろでもない。あたしから
 見ても、大して特のない平凡
 な席だから、あんなに頑なに
 拒むなんて変だなぁとは思っ
 たけどさぁ…。

 あたしだって、乱馬の隣じゃ
 ないなら今の席にいたいなん
 て一切思わないだろうし…。


 ……あれ………?

 今の…もし、今あたしが考え
 たことと同じことを乱馬も考
 えてくれてたとしたら――?

 根拠なんて何もない、ゆかの
 想像から始まった話だけど…
 もし、そう思ってたからあん
 なにも頑なに拒否したんだと
 したら……

 嬉しい…かも…

 期待しない方がいいとわかっ
 てはいるのだけど、あたしは
 つい頬が弛んでしまうのを止
 めることができなかった。


 結局乱馬とひなこ先生が学校
 に戻ってきたのは、まるで謀
 った様にちょうど英語の授業
 が終わった直後だった。

 それから、なんとなくゆかの
 言葉が頭から離れなくて授業
 中もつい隣に意識が行ってし
 まう…。

 ちらりと隣を盗み見ると、や
 はり授業等全く聞く気がない
 彼は、机に突っ伏して眠って
 いる。

 そんな乱馬を見ていると、先
 程までの期待感と喜びは一気
 に萎んでしまった。

 やっぱり一番前の席が嫌だか
 ら反対しただけなんだわ…。

 「はぁ…」

 そう思うと、つい溜息が出て
 しまった…。






 ******






 「なんかあったのかよ?」

 いつもの帰り道。

 今日は珍しく邪魔者が現れな
 かったので、二人でのんびり
 と帰っていたら、唐突に乱馬
 が問い掛けてきた。

 「え?どうして?」

 「だってお前、授業中溜息吐
 いてただろ?」

 「…あ、見てたの?寝てるん
 だと思ってた…」

 「…寝ようと思ったらタイミ
 ング良く聞こえてきたんだよ
 」

 そう言う彼の耳は気のせいか
 もしれないが、少し赤い…?

 「…心配してくれてるの?」

 「ち、ちげーよっ!!た、ただ
 なんとなく気になったからだ
 なぁ〜…」

 焦っているところを見ると、
 どうやら図星の様だ。

 こういうところ、好きだなぁ
 と素直に思える。見ていない
 ようで、彼はちゃんと自分の
 ことを気に掛けてくれている
 。素直に表現してくれないの
 は頂けないけれど、それはま
 ぁお互い様なので乱馬ばかり
 は責められないから。


 「大丈夫!ちょっと疲れてた
 だけだから」

 嬉しくて笑顔でそう言うと、
 彼はホッとしたように肩を下
 ろしたあと「べ、別に心配な
 んてしてねーけどな…」なん
 てボソボソ言っている。その
 言い草には少しムッとしたけ
 れど、そっぽを向いている彼
 の耳は今や真っ赤に染まって
 いるから、まぁ許してやるか
 。



 「そーいえばさぁ、どうして
 あんなにも席替え嫌がってた
 の?」

 ふと思いついた話題を挙げる
 と、彼は意外そうにこっちを
 見た。

 「お前は嫌じゃなかったのか
 ?」

 キョトンとした表情でこちら
 を見てくる乱馬。その表情は
 まるで、当然のことをしたん
 だと言わんばかりの顔で…。

 「え…そりゃあ、嫌っていえ
 ば嫌だったけど…」

 「だろ?」

 「うん…。…って、そうじゃ
 なくてっ!!」

 「なんだよ?」

 「や、その……ん〜…ま、ま
 ぁ、そうよね。一番前の席じ
 ゃあ寝ててもすぐに起こされ
 ちゃうし、いくらアンタでも
 そこまで図太くはなれないわ
 よね〜」

 乱馬のあまりに自然すぎる反
 応に、次に何と言って会話を
 繋げればいいのかわからなく
 なってしまったあたしは、つ
 いつい憎まれ口を叩いてしま
 った。

 「はぁ?」

 「けど、ひなこ先生のことだ
 からまた明日も席替え!なん
 て言いだすんじゃない?」

 なんだか怪訝な顔をした乱馬
 が少し気になったけど、いつ
 ものテンポで話しているから
 、つい口が止まらなかった。

 「…何回言ったって、俺が邪
 魔してやるさ」

 「え……なにもそこまでムキ
 にならなくても…」

 たかが席替えなのに、あまり
 に真剣な乱馬の様子に少し笑
 ってしまう。

 「なに笑ってんだよ?」

 「ごめんごめん!アンタがそ
 んなにも一番前の席を嫌がる
 とは思ってなかったからさぁ
 〜」

 まるで小学生だなぁ、なんて
 思っていると、彼は意外な言
 葉を口にした。

 「…別に一番前とか、そんな
 ことはどーでもいいんだよ」

 「…え?じゃあどうして?」

 そう問い掛けたら乱馬はちら
 りとこちらを見た後、不貞腐
 れた様に「……教えね〜」と
 呟いた。

 「え…な、なによ〜!教えて
 くれたっていいじゃない!」

 「自分で考えろ」

 ムキになって問いただそうと
 しても、さらりとかわされて
 しまう。


 ……頭きた!
 そっちがそう来るなら…

 「教えてくれないんなら宿題
 手伝ってあげな〜い」

 意地悪く言ってやると、案の
 定乱馬は「なんでだよ!?」
 とか「卑怯だぞっ」なんて慌
 てだした。

 けど、ここまで来たらあたし
 も意地だわ!絶対に理由を聞
 くまでは折れてやらないんだ
 から!


 散々喚き散らした乱馬だった
 けれど、あたしがことごとく
 全て無視したからか、溜息を
 吐いたあとようやく「わかっ
 たよ…」と呟いた。

 勝った!

 密かに勝利の余韻に浸った後
 、あたしは彼の方を振り返っ
 た。

 「じゃっ!教えて?」

 満面の笑みでそう言うと、諦
 めた様にもう一度溜息を吐い
 てからこう言った。

 「…お前と同じ理由だよ…」

 「?」

 意味がさっぱりわからなかっ
 たのが顔にも出ていた様で、
 乱馬は呆れた様にこちらを見
 ていた。

 「なんでわかんねぇんだよ」
 って表情だけど、それだけの
 言葉でわかる人なんていない
 わよっ!

 「なによ〜!意味がさっぱり
 わかんないわよ!あたしと同
 じってどういうこと?」

 「…これ以上はこっ恥ずかし
 くて言えねえっつの!」

 「自分で考えろ!」と言った
 後、拗ねた様にそっぽを向い
 てしまった。こうなってしま
 ったら、もう何を言っても聞
 いてはくれないだろう…。

 「もぅ……」

 しょうがないから自分で考え
 てみることにしたんだけど…


 『…お前と同じ理由だよ…』

 あたしと同じ…?
 あたしが席替えを嫌がる理由
 と同じってこと?

 それって……?

 「……え…」

 いやいや、でもあたしは乱馬
 に理由教えてないわよね…?
 でも、この自信家男のことだ
 から…もしかしたら…


 「ねぇ?あたし、あんたに理
 由教えてないわよね?なのに
 どうして…」

 「あぁ〜!うるっせぇなあ!
 もういいじゃねぇか何でも!!
 それよりサッサと帰ろうぜ」

 「あ!ちょっと…」

 そう言うと、乱馬は足早に行
 ってしまった。

 最近わかったことなんだけど
 、乱馬がこういう態度をとる
 時はだいたい照れてるのよね
 …。

 ってことは、やっぱり……


 ゆかの言ったこと…あながち
 間違いでもなかったのかもし
 れないな…。


 嬉しくなったあたしは、少し
 遠くなった背中に追い付くた
 めに走りだした…。

 …今日くらいは、少しだけ素
 直になってやるかな。


 そんなことを思いながら…。



 end..



 ■あとがき■

 ひっさしぶりの更新です。

 遅くなって本当に申し訳ない
 です…!!
 長編ばっかりに気をとられて
 て気がついたらクリスマス…
 (涙)

 クリスマス記念小説みたいな
 のを書きたかったけど、結局
 ムリでしたo(T□T)o

 こんな相変わらずな超駄文し
 か書けないわたしですが……
 (本当にひどいブツばっかり
 で…穴があったら入りたいで
 す汗)

 これからも見捨てないでやっ
 てくださいませ〜(><)<




 

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