愛歌
□抱き締めた花の香で鎮めて
2ページ/5ページ
「…雅遠様、怒ってます?」
「…なにがだ?」
子供達と別れ、各々玄武と朱雀に騎乗し、のんびりと白河邸へと向かっている。その最中に、保名は前を行く雅遠に声をかけた。
「姫君を貶めるような発言をした子どもに、怒ってます?」
「いいや。怒ってないぞ」
声音はいつもどおりだが口調はとげとげしい。……間違いなく怒っている。
「…やっぱり怒ってますね」
「怒ってない」
「………豆腐屋のイサムがあそこに」
「どこだ?」
「…怒ってるじゃないですか」
呆れた風情で息ついた保名に、むっと閉口し、雅遠は馬を止めて振り返る。
「………桜姫はな、可愛くて優しくて傷つきやすいんだ。…そんな桜姫を酷く言う奴があるか」
「……その溺愛ぶりは賞賛に値しますよ…」
まぁ、主の彼の姫君へ対する愛の深さは計り知れないのは知っている。何せ敵対する家同士だというのに、彼女しか娶らないと断言したのだから。