哀歌
□傷が癒えるその日まで
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―――それから、三日後のことだ。
「来るなり姫様に抱きついて寛いでるなんてなんてはしたない! 姫様から離れてください」
「いいじゃないか減るものじゃないし。大体、此処にいれるのは半日程度なんだしそんなに怒らなくても」
「そんなこと言いながら、姫様抱き締めて寝てたのはいつでしたか?!」
「く、葛葉…おちついて。ね?」
「ほらほら。姫様は嫌がっていないんだし、雅遠様の好きにさせたらいいじゃないですか。それより、保名さんの世話をお願いしますねー」
「ちょっと淡路さん―――」
繰り広げられる押し問答に、あきれを通り越して放っとくことを決め込んだ保名に、不承不承ながらも葛葉が近寄ってくる。
「………申し訳ありません。雅遠様が…」
一応主の行動を抑えきれないのは申し訳なく思っていたので、謝る。
「そう思うんならあれをどうにかしてください」
ぴしゃりと言い放たれ、苦笑はするもののそのひとが隣にいるのを感じるだけで嬉しくなる自分はげんきんだと思う。ああして愛おしい人を躊躇いなく抱き締められる主を羨ましく思いつつも、保名は葛葉を振り返る。
「………姫君は、雅遠様と会う前はどんなご様子でしたか?」
「…そうですね。………姫様は自分の宿命を受け入れて、何を言われても何をされても何も言い返しもしませんでした」
「………そうですか」
やはり、雅遠が来るようになってから変わったのだろう。あの楽しそうな笑顔も、優しい微笑も、雅遠が彼女の奥底から導き出した表情なのだ。
そう考えると、やはり雅遠を彼女から引き離そうとしていた自分が愚かに思えてならない。